個人情報の『有用性』

『緊急連絡網』を配布しない事例から

 「学校の緊急連絡網が家庭に配られない」個人情報保護の観点からこんなことが現実に起きています。

地元の区立中学でも今年度から「個人情報保護法の施行に伴い、取り扱いが大きく変わりました」として、まず連絡網に掲載してもいいかどうかの承諾を家庭ごとにとり、同意した場合でもクラス全体ではなく、自分の列だけ5名程度の緊急連絡網が配布されました。承諾しなかった家庭には先生が直接電話をかけるとのこと。

学校は「個人情報保護法」の対象ではありませんが、自治体の「個人情報保護条例」の「実施機関」にあたり、条例の規制を受けます。連絡網を配布するということは、学校が把握している個人情報の「外部提供」になり、本人(家庭)の同意が必要となることは確かです。しかし、その一方で、東京都や国民生活センターの判断として、こうしたことは「法への過剰反応」であるとの見解も出されています。法の第一条には「個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする」と明記されているのですが、この解釈がなかなか浸透していないようです。

緊急連絡網は、災害対策や子どもの安全対策のためのもの、と私は理解しています。危機管理上必要なものなのです。それでなくても、子どもの安全を地域で守ろう、という気運が高まっている時です。下校後や休日に何か問題が起きる、なんてことも想定しなければならず、そんなときは学校の先生よりも地域の保護者同士が頼りあう存在です。また日常的にも大きな意味を持ちます。未就学のときは親子で顔の見える遊び方をしますが、入学すれば子どもは親の知らない友達がたくさんできます。「一緒に外遊びに行ったんだけど帰りが遅いな」、あるいは、子どもがお世話になったからひとことお礼を、などというとき、1本の電話が安否確認になり、保護者同士のコミュニケーションをよくすることにもなるでしょう。

東京ネットの政策委員会で、人権の専門家・上村英明さん(恵泉女学園大学教授・市民外交センター)のお話を伺いました。上村さんは、現在関わっていらっしゃる川崎市の「人権の推進に関するガイドライン」の中で、「一定の個人情報はむしろ適切な公開によって個人の『権利利益』を促進する」とし、「行政機関は個人情報の『有用性』を積極的に考慮することが必要」と指摘しています。特に教育機関における上記の件につき、「緊急の場合の権利保護、教育権の享受などに関して有用であることを原則的に確認する必要がある」と言及しています。
この考えのもと、利用方法や管理方法などを徹底する方策をとればいいのであって、やはり学校の「連絡網」は必要だと考えます。少なくとも同意を得る過程を踏んだのなら、クラス全体のものを出してもいいのではないでしょうか? みなさんはいかがでしょうか?

(写真は、善養寺で行なわれた区のバラ品評会の審査員をしたときのもの。5/19)