江戸川区主催「放射線・放射能を正しく理解しよう」講演会で、区民の正しい理解はすすんだか?

学識者と一般市民と行政

 750人収容のタワーホール船堀大ホールは、前方が若干空いている程度でほぼ満席でした。

 首都大学東京健康福祉部放射線学科長・福士政広教授のお話は、正確性を期すあまりか、基礎知識の導入部分から、一般市民に向けての講演にしては難しすぎるのでは? というのが率直な感想。「放射線を正しく理解する」という資料も、会場のパワーポイントと別の体裁で、せっかくの図表も小さくて見ずらい・・。帰宅して読んでみて、パワーポイントとスタイルが異なっているものの、同じ内容も結構あることに気付きましたが・・。

 「自然界、身の回りには放射線を出すものがいろいろあり、いつも放射線を受けている」「遺伝子DNAにとって、紫外線と酸素が二大毒素。進化の中で獲得してきたこれらへの防御機能は放射線についても有効。低線量放射線は生命にとって必須で、むしろ有益ではないかという現象報告もある」「広島・長崎の被曝二世の遺伝的調査では、被曝二世と対照(被曝していない)二世の間で異常頻度に有意の差は認められていない」など、どれも事実でしょうが、それはそれとして、今知りたいのは、かつてない状況を踏まえてどうなのか、ということ。資料には「原子力発電所の震災被害がもたらす影響」という副題が付いていましたが、多くの人が不安に思うこの部分には特段触れられなかったという印象です。

  江戸川区の状況については、震災以前のデータ地図を示しながら「線量は低い(安全)」と話され、詳細なポイント測定結果についてはなぜか葛飾区のデータを紹介。都や区の空間放射線量測定結果によると、江戸川区は都内でも線量が高く、さらに23区の中で、江戸川清掃工場だけから国基準を超える線量が検出されている、といった状況を心配する区民の不安に向き合う内容ではなかった? 最後は「すべてのものは毒。毒でないものは存在しない。毒になるか薬になるかは正しい量であるかどうかで分かれる。」と締めくくられました。資料には「放射線について、どんな微量でも毒、というのではなく、『大量では有害だが、少量では無害か、場合によっては有益』という考え方を尊重すべき」とも。

 7月27日、衆議院厚生労働委員会に参考人招致された東大アイソトープ総合センター長・児玉龍彦教授の陳述内容が、大きな反響をよんでいます。今回の原発事故で2号炉のピット水から検出されたヨウ素131が540万㏃/mlに達したことについて、「広島原爆1個に相当する膨大な量」とし、広島原爆の20〜30倍の放射性物質の飛散を指摘。「熱量からの計算では広島原爆の29.6個分に相当するものが露出。ウラン換算では20個分のものが漏出している。さらにおそるべきことにはこれまでの知見で、原爆による放射能の残存量と、原発から放出されたものの残存量は1年経って、原爆が1000分の1程度に低下するのに対して、原発からの放射線汚染物は10分の1程度にしかならない。つまり今回の福島原発の問題はチェルノブイリ事故と同様、原爆数十個分に相当する量と、原爆汚染よりもずっと大量の残存物を放出したということが、まず考える前提になる。」その上で、現行の「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」は高線量の放射性物質が少量の場合の健康被害を予防しようとする法律だが、今の問題は、低線量の放射性物質が膨大に飛散することから健康被害を予防することだと主張。量が膨大であれば、必ず濃縮されて、想定外に高い濃度が生まれ、健康被害の予防が必要になることから新たな法整備が必要、など具体の4つの提案をされ、全力で子どもを守ることをお願いする、と力説。7万人が自宅を離れてさまよっているときに国会は一体何をやっているのか、と怒りをあらわにされました。「膨大な量」について、福士教授のご見解をお聴きしてみたいものです。

 この参考人陳述は、そこが知りたい、という現況に沿った内容で、一般市民にもわかりやすく展開されました。国会で使われた資料も論点がはっきり。これが大事。(質疑についてはこちら

 区の講演会では最後に質問タイムが持たれ、孫たちの健康不安を訴え、講演者とスタンスの異なる女性が、さまざまな不安事象をもとにまず質問されましたが、これに対し「質問の趣旨がよくわからない」と。であれば、こういうことでいいか、と整理されればいいのでは? 

 「チェルノブイリでは土壌からの汚染によって食べ物に影響が出たが?」という質問には、専門ではないとした上で、「椎茸のような菌類は表層そのものに集める傾向がある。根からの移行率はそれほどデータがないが、データ測定は正確にできるので、きちんと測定し、選択の余地を示すべき」。専門でないくらいのほうが、市民にはわかりやすい?

 一方、内部被曝についての質問については、わかりやすいとは言い難いお答えだったように思いました。一般市民対象の講演会です。専門家として、高度な専門性に裏打ちされた知見をもって、誰にでもわかりやすい表現で、市民の素朴な疑問を解きほぐすような対応をしていただけたら、と感じました。
 
 区の仕切りも一考すべき。区民の不安解消のための講演会のはずが、突然質問を打ち切り、閉会宣言するなど、逆作用しかねない雰囲気。消化不良の方々が多かったのでは? 果たして正しい理解はどこまですすんだか?