見直し相次ぐ「学校選択制」③~戻りたいけど戻れない?

 地域と子どもたちの関係性の希薄化、児童生徒数の偏り、導入目的に沿わない選択、緊急時における安全確保、指導体制への影響、などが「学校選択制」を見直した各自治体共通のポイントとして挙げられます。中でも、地域・学校・保護者の三位一体により子どもを育てる、という教育の基本が崩れたこと、児童生徒数の偏在が顕在化したことで学校運営に支障をきたしたこと、さらには東日本大震災の経験から、登下校の安全性確保の優先順位が高くなったこと、が見直しを余儀なくされた三大要素と言えるようです 。

 都内で最初に学校選択制を導入した品川区(小はブロック選択、中は自由選択)は、見直しには至っていないものの、本年6月より品川区教育委員会版タウンミーティングを年度内に13の全地域で実施。2000年に策定した「教育改革プラン21」について、町会長や一般公募区民との意見交換を行っていますが、学校選択制については否定的な意見が多く、当局からも「ここまで評判が悪いとは・・」との声も出ているといいます。

 問題点が数多く指摘される中にあって、トップの強力なリーダーシップで改革を進めている大阪市では、これまで住民の反対によって導入してこなかった「学校選択制」を今後導入すると発表。学校間の競争を促すことで、市立小学校全297校のうち、2014年度末をめどに、小規模校3分の1の学校を対象に統廃合する、としています。

 東京で「学校選択制」が始まった当初、少子化に伴う統廃合を視野に、市民に選択という仕分けをさせることで、廃校につなげる布石にするのでは、との推測もなされました。「選択制の結果による児童生徒数の減少をもって、学校統合に結びつけるのは望ましくない」との文科省の思料を待つまでもなく、地域における学校のあり方の議論もないままの統廃合は避けるべきです。江戸川区では今後地域でこうした話し合いが持たれることになりました。

 「学校選択制」と同時に実施されている「指定校変更制度」にも改めて注目が必要です。「学校選択制」に比べその周知度が低い現状にありますが、そもそもこの制度を、通学距離の不合理さを解消する目的で2003年度(平成15年度)入学者から実施してきた立川市では、これまで隣接する学区域への入学に関しては中学校のみを対象としてきましたが、災害時の児童の安全や学校と地域との連携を考慮し、来年度より、小学校変更の条件のひとつにもすることとしました。この活用については自治体によって判断が分かれており、「学校選択制」の議論と同時にその運用についての整理も必要です。

 憲法に謳われた「ひとしく教育を受ける権利を有する」は、すべての子どもたちにとって、一定水準の教育が安全かつ適切に受けられることを定めたものであり、「学校選択制」により学校運営に支障をきたし、教育内容に差が生じているとしたら、それは想定外のことでしょう。

 見直しに着手した自治体の動向からは、「学校選択制」導入前の状況に近づきつつあることが窺え、限界を感じながらも、一度導入した以上、いかに廃止せず何とか運用していくことに腐心しているように映ります。杉並区のように、廃止を宣言できるのは、導入時と区長が交代していることが大きく作用していると思われます。

 「学校選択制」は子どもの最善の利益に寄与しているか。導入から一定期間を経て浮き彫りになったさまざまな課題が今回の見直しで改善できるのか、引き続きチェックしていきます。