「スーパー堤防不要」意見~利根川・江戸川有識者会議

左から3人目が宮村忠座長。国の「高規格堤防の見直しに関する検討会」の座長、及び江戸川区の「気候変動に適応した治水対策検討委員会」の座長も務め、スーパー堤防を推進してきた。

 3月8日(金)午後、「利根川・江戸川有識者会議」を傍聴すべく会場へ行きました。

 2006年12月に始まったこの会議は、7年が経ち、第10回目。第1回から4回までに2年半を要しましたが、昨年9月の第5回からは半年間で計6回、月に2回開催されることもあり、早急に策定したい国交省の意向が現れています。 

 しかし、その会議の内容はというと、計画の基本となるデータ、1/70~1/80の治水安全度、及び、17000㎥/秒という治水目標流量の設定が妥当かどうかという争点についての決着を見ないまま、前に進んでいない、という状況です。これらの数値をこのように高く設定すれば、治水のために八ツ場ダムが必要、スーパー堤防が必要という結論を導きやすくなります。というより、こうした結論が先にあり、それを正当化するために、数値を上げているのでは? 今回の原案が示されるまでは治水安全度は1/50であったのに、なぜ急に高くなったのか。また、治水目標流量についてのここまでの議論において、17000㎥/秒を是とする意見、一方、15000㎥/秒に下げるべきという意見がそれぞれ出ている中では、15000㎥/秒とした場合の整備内容がどのように変わるのか、費用はどうなるのか、といったことも国交省は明確に提示する責務があるのではないでしょうか。向こう30年間の整備計画を決める以上、これくらいの労を惜しんでいる場合ではありません。

 有識者会議の委員には、流域都県の新聞社の方々も就かれています。専門家に対し、一般市民の代表とも位置付けられる存在。その方々からも「この新モデルについて矛盾が解消されていない。解せない。」との意見がこの日も出されました(欠席者からも同様の文書意見あり)。委員から出された意見・疑問をクリアにしようとすらしない国交省の姿勢は大いに問題です。「カスリーン台風のときの実際のデータをきちんと使っているのか」と問われた国交省の回答は「降雨のデータは使っているが、流量のデータは使っていない」というもの。説明どころか、さらに疑問が増すことに。これには委員も??  傍聴者からも「ショーゲキの発言だ」との声が漏れていました。

  物々しいムードが漂う中、御用学者と思しき方々の理解不能の説明や座長の仕切りの悪さに、私語を禁じられている傍聴者からも、ガマンできずに野次が飛び、それをいさめるアナウンスが流れ、そこここに配備されているスタッフが駆け寄るという光景も。 「それで科学者と言えるか!」「座長は委員の提案(参考人招へい)をちゃんと諮って」などなど。

 2時間の会議中、スーパー堤防事業については唯一、関良基委員(拓殖大准教授)から発言がありました。「施行エリア22kmを実施するには2兆円を要し、年間700~800億円かかる。こんな事業を今後30年間で進めてほしくない。そもそも無理な計画であり、計画に入れるわけにはいかない。スーパー堤防でなくても済む耐越水堤防の技術開発を」。同感!

  川そのものしか見ない河川工学者だけで議論していていは、将来にわたる持続可能な計画をつくることはもはやできません。物理学者、地質学者、環境学者、確率統計学者、そして現場や流域の実情もよく知る河川工学者など、多分野にわたる有識者を集めての検討が求められます。 

 都民の治水・利水に極めて重要な河川整備計画となるはずですが、この原案や、有識者会議の議論については、八ツ場ダムの地元・群馬県では各紙報道していますが、東京のメディアが扱うことはほとんどない状況。この実態を首都圏民に向けてもぜひ報道してほしいもの。原発問題同様、水問題も、地方に負担を押し付け、知らん顔は許されません。