ルール無視の費用便益計算~江戸川区スーパー堤防差止訴訟第4回口頭弁論

 4日(水)に行われた第4回口頭弁論は、初めて朝10時の開廷となりましたが、70名ほどの傍聴者が駆け付けました。

 すでにお伝えしているとおり、被告・国はスーパー堤防の必要性の根拠として、費用便益計算の結果、「便益は事業費の1.4倍」と説明しています。しかし、費用便益計算の方法を定めた国の【治水マニュアル】に従って計算すると、便益は事業費を下回ります。これについて、原告から改めて、以下2点の主張がなされました。 

1. 破堤地点の設定について

【治水マニュアル】には、「破堤地点の設定は、氾濫ブロックの想定被害が最大となるかどうかを基準として設定すべき」「現実に破堤する可能性のない地点を想定破堤地点としてはならない」とある。しかし、今回の国の計算方法は、北小岩1丁目、河口からの距離13.1kmを破堤地点として設定している。これは、【治水マニュアル】に沿ったものではなく、河川整備調整官作成の内部文書に基づくものであることがわかっている。【治水マニュアル】に沿って正しく計算すれば、北小岩1丁目では破堤しないことになり、スーパー堤防の便益はゼロとなる。当該地は、江戸川区間の最下流であり、上流では下流より「流下能力」が低く、洪水や氾濫しやすい区間が数十kmにわたり存在することから、大規模な降雨があった場合にも、上流で氾濫が発生し、下流では氾濫しない。やはり当該地が現実に破堤する可能性はゼロである。現実に破堤する可能性のない地点を破堤地点と設定するのは【治水マニュアル】違反である。 

2. 整備地点の流下能力の評価について

 【治水マニュアル】は、「流下能力の評価は、河道計画(河川整備計画)と整合するよう評価すべき」としている。河川整備計画では北小岩1丁目地点の流下能力を5875㎥/秒と評価しているが、今回、国は、同地点の流下能力を4715㎥/秒と評価し、氾濫シミュレーションを行っている。河川整備計画に整合するよう流下能力を評価し、費用便益計算を行えば、費用便益比は0.5を下回るのである。 

  冒頭、裁判長からそれぞれが提出した書面の確認がなされ、裁判長が「陳述しますか?」と尋ねると、被告も「陳述します」と答えるものの、実際の陳述はなし。口頭弁論と銘打ってはいるものの、ここで言う「陳述」とは、「書面に書いたとおりです」ということであり、法廷では何も語らなくていいのが通常。裁判所の常識は、一般の常識とは大きくかけ離れています。今回も口頭で弁論したのは原告側のみ。せめて、書面の骨子だけは双方に発言させるなどして、裁判の内容、進行状況を知らしめるべきなのでは? 憲法に謳う裁判の公開とは、傍聴者を単に法廷に入れるだけで足りることではないでしょう。およそ公開の趣旨とはほど遠いまま、延々続くこの悪習を変えるべき。被告・国と江戸川区も、裁判にまで至ったこの問題について、法廷において、十分かつ明快な弁論によって説明責任を果たすべき。

 次回は「書面」が1225日までに出されることとなり、弁論期日は来年112日(火)午前10時から、103号大法廷で行われます。「陳述」を読めない傍聴者の知る権利を満たしてほしいものです。