スーパー堤防事業評価の正当性を問う~関東地方整備局事業評価監視委員会

篠崎公園地区のスーパー堤防と一体の土地区画整理事業は、2月26日、東京都知事による事業認可を経て、3月14日、江戸川区長により事業計画決定がなされました。

これに先立ち、築堤の施行者である国交省の関東地方整備局事業評価監視委員会は、同地区のスーパー堤防事業の再評価を行い、対応方針が原案のとおり了承されました。

しかし、この事業評価監視委員会は異例の事態に。委員長を務めている東京大学政策研究大学院の家田仁(いえだひとし)教授が、委員会の中で、スーパー堤防事業の必要性についての強い疑問を、相当の時間を割いて発言されたというのです。「江戸川全体でスーパー堤防の整備を進めていく具体的な計画がなくて、ここだけ、スーパー堤防にする意味がどこにあるのか」という趣旨であったということです。

家田先生は、日頃から公共事業について、「インフラ整備は人の見方や価値観の変化で変わるもの。時代が変わり、その時何が必要で、何がいらなくなるのかという判断、いい悪いの判断と選択はとても高度な難しいことであり、だからこそ冷静に、慎重に考えるべきことだ」とのお考えを示されています。結果的には今回は原案妥当との判断でしたが・・。

公共事業を行うにあたっては、B/C(費用便益計算)の値が1を超えることでその事業が実施すべき事業と認められています。

事業評価の資料によると、篠崎地区では、この値が1.5、ちなみに北小岩1丁目では1.4となっていますが、この計算については、国交省が以前から持っている「治水経済調査マニュアル」を使わずに、別途、新しくスーパー堤防用に個別箇所に特化した算出法をつくって、計算されています。

裁判報告でお伝えしているとおり、もともとの【治水経済調査マニュアル】は、「流下能力の評価は、河川整備計画と整合するよう評価すべき」としています。国の利根川江戸川河川整備計画では、たとえば北小岩1丁目地点の流下能力を5875㎥/秒としていますが、再評価はこの数字を使わずに、4715㎥/秒と異なる数字を用い、沿川の他の箇所は考慮することなく、ここだけが氾濫するという前提でシミュレーションを行っています。これを、河川整備計画に整合させて流下能力を正当に評価して計算を行うと、費用便益比は0.5を下回る結果となり、見直しの判断がなされるべき事業、となります。

今回の評価資料には、課題として、「現在の高規格堤防の整備手法では、一定区域を計画的に安全にすることは困難」とも明記されています(P9)。こうした致命的な課題を認識しながら、事業ありきの恣意的な算定がなされることで、治水事業が根本的に歪められてしまっています。

本件について、住民が発行しているニュース「かわら版篠崎」もご覧ください。かわら版篠崎第18号1面かわら版篠崎第18号2面

昨年の鬼怒川決壊を受け、被害の大きかった常総市の市議会では、水害検証特別委員会を設けました。ここに招かれた専門家、旧建設省土木研究所の次長だった石崎勝義さんは、「通常堤防の整備を怠ってきたのは国の不作為」だとして、堤防の人家側を遮水シートで覆う強化工法を実施していくべき、と提言されました。(報道記事はこちら

この工法は30年前に完成していましたが、国がダム建設を優先したため、堤防強化がなおざりにされ、本採用には至らなかったものです。今こそ、こうした堤防技術に目を向け、安全な堤防をつなげていくことが、あるべき治水対策なのではないでしょうか。

第3回江戸川防災勉強会では、4月9日(土)、石崎勝義さんをお迎えし、真に安全な堤防についてお話を伺います。どうぞご参加ください。