鬼怒川決壊に学ぶ・あるべき安全な堤防①~有効工法を封印した行政の不作為

2016年4月14日 00時23分 | カテゴリー: スーパー堤防

DSCN4305-019日(土)、第3回江戸川防災勉強会「鬼怒川決壊に学ぶ~本当に安全な堤防とは」で講演された元建設省土木研究所次長・石崎勝義さんは、耐越水堤防の技術がすでに確立していることを、公式文書に基づき話されました。根拠とされたのは「加古川堤防質的強化対策調査報告書」(建設省土木研究所資料代2621号)及び「オーラルヒストリー 近藤徹『逆境からの模索』」(公益社団法人日本河川協会)。

石崎さんによると、1966年、67年と、相次いで同じ3ヶ所が破堤した加治川(新潟県)の水害を受けて、当時、土木研究所所長を務められていた福岡正巳さんが、1970年「河川堤防強化による新治水方式」を提唱。「土砂による堤防は沈む。シートで被覆すれば破堤は起こらない」という主張は、当時の所報に掲載されたといいます。石崎さんが尊敬してやまないという福岡さんは、土質工学がご専門で、のちに東京大学教授になられました。加治川水害は1968年、住民から訴訟も提起されています。

土木研究所では、さらに、1974年、3万戸が浸った巴川(静岡県)水害により、越水堤防の調査研究が加速。建設省関東地方整備局も費用面を含め、後押ししていたといいます。

そして、8年の調査を経て、1984年、「越水堤防調査最終報告-解説編」が出され、「アーマー・レビー」と名付けられた耐越水堤防が紹介されたのです。アーマー(armour)とは鎧、レビー(levee)は堤防。天端にはアスファルト、法面には川側・人家側ともに止水シートを施し、さらに川側下方にはブロック、人家側下方には「ふとんかご」なる保護工法を用い、これを、鎧を着けた堤防、と称したのです。越水が起きても耐えられる堤防工法です。

加古川(兵庫県)において、この工法により試験堤防が施工され、1988年3月、建設省土木研究所河川部河川研究室機械施工部土質研究室がまとめた「加古川堤防質的強化対策調査報告書」には、次のように明記されました。

『加古川堤防の質的強化を目的として、大型堤体模型を用いた越流実験および浸透実験により、耐越水工法および耐浸透工法の検討を行った。その結果、耐越水工法については、ふとんかごを用いた裏法尻保護工およびジオメンブレンを用いた裏法保護工が十分な耐越水能力を持つことが確認された。』

昨年8月、公共事業チェック議員の会事務局長・初鹿明博衆議院議員とともに国交省と対話した際、治水課は相変わらず「堤防強化に関する技術開発が各方面で実施されているが、現在の技術レベルでは、高規格(スーパー)堤防以外に越水に耐えられる構造は確立されていない。従って、高規格堤防以外の区間の耐越水堤防の計画はない」と回答。江戸川区も同様の説明を繰り返してきました。

しかし、事実は上記のとおり。ここまで明記して、技術が確立されていない、とは言えません。この報告書は、ていねいかつ具体的にまとめられ、まさに実施段階にあることが示されているのです。(江戸川ネットにもあります。ご覧になりたい方はご連絡ください)

スーパー堤防事業が創設された1988年、まさにその年、高度な技術力と政策能力を持ち、かつ、国家の政策決定に関与できる高級技術官僚たちは、確信をもって耐越水堤防「アーマー・レビー」を生み出し、世に送ろうとしていたのです。

技術開発は宇宙にまで及ぶ時代。優秀な技術者たちをして「堤防は土が原則。高規格堤防しかない」などと決めつけるなど、ありえないでしょう。国交省は、真の治水に向け、税を投入し、省内の優秀な人材が心血を注いで成し遂げた仕事を、自ら否定してきたと言えます。愚の骨頂です。

以後、この2つの工法は、一方は確かな有効性が確認されることもなく、東日本大震災では被害を受けながらも生き延び、もう一方は封印されることに。この歪められた治水行政により、脆弱な堤防の強化はなされず、危険な状態が放置され、上流には無駄なダムが数々つくられ、国民は、生活権・財産権が侵されるほどの状況に置かれることになったのです。

石崎さんは「有効な堤防技術を持ちながら、それを実施してこなかったのは行政の不作為」と断じました。

石崎勝義(いしざきかつよし)さんプロフィール/工学博士・技術士(河川・環境)。1938年生まれ。東京大学工学部土木工学科卒。元建設省土木研究所河川研究室・水文研究室次長、河川局災害対策室長、木曽川下流工事事務所。長崎大学環境科学部教授・早稲田大学持続的未来研究所客員教授など歴任。昨年の鬼怒川決壊により、官庁技術者としての責任を痛感。被害を受けた常総市の市議会水害検証特別委員会において、 越水しても決壊しない堤防技術を有しながらこれを封印し、堤防を危険な状態に放置していた行政の不作為を指摘。水害被害者の国の賠償による救済と再度災害を防止する堤防整備を提唱し、技術者としての義務を果たそうとしている。「防災体制-その分析と対策」(翻訳・編集)「水環境の保全と再生」(編著)、論文など多数。研究テーマ:水使用合理化・雨水浸透・次世代トイレ。茨城県つくばみらい市在住。