鬼怒川決壊に学ぶ・あるべき安全な堤防②~スーパー堤防のために耐越水堤防を封印

加古川堤防質的強化対策調査により、耐越水堤防技術が確立されたものの、その後、この工法が日の目を見ることはありませんでした。

10年後の1998年、ようやく第2弾として「フロンティア堤防」の重点化が打ち出されます。2000年には、雲出川(三重)、那珂川(栃木)、信濃川(新潟・長野)、筑後川(九州北部)にて計13.4km実施されました。越水に対し耐久性が高く破堤しにくい工法として、「第9次治水事業5箇年計画」に、スーパー堤防とともに、その推進が盛り込まれ、当時の河川局治水課肝入りで全国展開されるはずでした。しかし、02年、その大元となる「河川堤防設計指針」から「耐越水堤防」の記述が全面削除されたと言います。( 「フロンティア堤防」についての過去のHPはこちら。工法についてはもはや国交省地方整備局のHPからも削除されています。「どうする?利根川、どうなる?利根川、どうなる?私たちⅡ」のHPから。)

「河川環境の整備と保全」が盛り込まれた1997年の河川法改正を受けて発足した淀川水系流域委員会では、まさにこの堤防強化工法についての話し合いが進んでいました。

しかし、2008年、国交省近畿地方整備局淀川河川事務所は土木学会に「淀川水系の長大な堤防を対象として、このような規模の堤防で越水が生じた場合、通常の河川堤防において計画洪水以下で求められる安全と同等の安全性を有する耐越水堤防が技術的に実現可能か」、諮問。そして、「技術的に難しい」とのトーンに終始する報告書がまとめられたのです。これを受け、国交省は「耐越水堤防」について、「100%の保証がない」「技術的知見が明らかになっていない」との理由で、実施を拒んできています。なお、淀川水系流域委員会は国交省近畿地方整備局長に提出した意見書の中で「耐越水堤防」整備を求めています。2.参照。

これにつき、元建設省土木研究所次長・石崎勝義さんは、「耐越水堤防強化に100%の安全性は必要か」と問いかけます。「堤防の決壊によって多数の死者が出る危険性があり、どの程度の雨が降れば、洪水がどこで越水するか想定でき、しかも100%の保証はできなくとも(どのような対策でも100%の保証などできるわけがない)、堤防決壊に対して抵抗力を増す対策があるにも関わらず、耐越水堤防強化を実施しないということは、行政の重大な不作為である」

勉強会を前に、江戸川区内のスーパー堤防地である平井・小松川・小岩、そして予定地の篠崎を見て歩かれた石崎さんは、「スーパー堤防は治水ではなく都市開発事業」とバッサリ。「一連区間堤防とはなりえず、越水すれば決壊の可能性はある。土である以上、幅が広くても同じ」との見解を示されました。

「2000年から02年の間に一体何があったのだろうか?」

そして、「スーパー堤防のために、耐越水堤防が封印されている」と話されました。