権利の濫用に係る拒否規定は必要か①~江戸川区情報公開条例改正

2016年11月13日 23時34分 | カテゴリー: 情報

江戸川区議会第三回定例会では、「情報公開条例改正」について、江戸川・ 生活者ネットワークは最終日、本西みつえが反対討論を行いました。その内容はこちらから。

今回、江戸川区は、情報公開条例に、4つのポイントを追加する条例改正を区議会に提案していました。「権利の濫用禁止」「濫用の場合請求拒否」「開示期間設定とみなし規定」「被覆処理文書閲覧有料化」です。

全国市民オンブズマン連絡会議の2013年調査によれば、対象853自治体のうち、「権利を濫用してはならない」と明記しているのは53 自治体。東京では、品川区(第5条)、府中市(第4条)が該当。さらに濫用と判断された場合、自治体が請求を拒否できると明文化しているのが16自治体。東京では中野区(第9条)・荒川区(第5条)、及び施行規則で規定する西東京市(第5条)。全国では岩見沢市・富良野市・横浜市・富山県・富山市・一宮市・豊田市・箕面市・奈良市・阿南市・春日市・唐津市・薩摩川内市で、その後、渋谷区(第9条)が加わっています。

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)」(1999年制定)においては、開示請求が権利の濫用と認められる場合についての明文規定はなく、権利の濫用の判断は、民法第1条「基本原則」にある3項「権利の濫用」が根拠とされています。

総務省は2001年、「情報公開法に基づく処分に係る審査基準」を定めており、開示請求が権利濫用に当たる場合には、開示しない旨の決定をすることとされ、権利の濫用に当たるか否かの判断は、「開示請求の態様、開示請求に応じた場合の行政機関の業務への支障及び国民一般の被る不利益等を勘案し、社会通念上妥当と認められる範囲を超えるものであるか否かを個別に判断して行う」こととされ、「行政機関の事務を混乱又は停滞させることを目的とする等開示請求権の本来の目的を著しく逸脱する開示請求は、権利の濫用に当たる」としています。

このように、制度運用当初から、情報公開請求権の濫用的行使をけん制せざるを得ない状況はあったということ。江戸川区も今回の改正理由を「請求者が本来の趣旨を逸脱するような開示請求を行い、その対応にあたって職員が疲弊している状況がある」としています。とはいえ、上記の通り、民法や審査基準がありながら、なぜ条例に明記する必要があるのか。いずれの自治体においても、特定の個人により大量請求が繰り返される場合がほとんどです。

10月18日(火)の議案審査にて、区は、訴訟において、行政に厳しい判決が下されていることから、条例に明確な根拠を置きたいと考えたことが明らかになりました。自動車検査証に係る開示請求事件に関する2003年の東京地方裁判所判決を前提にしているものと思われます(*下記参照)。しかし、条例に濫用拒否規定を持たない大阪市では、濫用的な公開請求に対し、これを禁止する仮処分申立てを行い、全面的に認められてもいます。このように、司法判断もケースバイケースであり、まずは情報公開制度に対する自治体の姿勢、判断、対応が問われると言えます。

なぜ条例明記が必要かについて、区は「行政の責務と区民の権利を明確にするため」との答弁を繰り返すだけで、それ以上は語られず。同時に、請求者からの威圧的行為については、威力業務妨害で対応可能であるとの区の認識も明らかになりました。

情報公開の道が狭まるとの指摘については、「情報公開及び個人情報保護審査会に諮問し、事前に行政訴訟の専門弁護士にも相談している。開示に係る司法判断は民法の規定を適用し不開示できる判断もあれば、逆の判断もある。東京地裁では、限定的に解釈して、行政への強い縛りをかける判例があった。こうした判例を参考に、権利の濫用に係る指針を策定した。これも審査会に諮り、公開している。行政に厳しい解釈をした判例をもとにしたものであり、これをもって現状の区民の知る権利が侵害されるとは考えていない」との回答でした。

区の指針(P27)で権利の濫用と認めるのは、①業務の停滞を目的とした請求 ②特定の部署、 職員への威圧・攻撃を目的とした請求 ③具体的でない大量請求 の3点。

請求棄却が所管課と総務課の判断であることについて、情報公開及び個人情報保護審査会に諮問してはどうかとの問いには、「審査会は不服申し立てがあったときの審査機関であり、事前に当否を判断するのは適切ではない」と。やはり、本年第一回定例会で私たちが一般質問(P81)したとおり、「情報公開及び個人情報保護審議会」の設置が必要となるでしょう。

「権利の濫用」「請求拒否」「被覆文書閲覧有料化」を盛り込んだ条例は全国に例がないこと、単に大量だというだけでは濫用にあたらないこと、また、有料化については、被覆処理の場合、一度コピーをし、黒塗りしてさらにコピーすることから、写しの交付以上に時間とコストがかかるため、などが答弁されました。

最終日、本会議での可否は31対12で、原案通り可決されることに。これにより、本年12月1日より施行されることになります。反対したのは、生活者ネットワーク(2名)、共産(5名)、江戸川クラブ(4名)、民進(5名のうち無所属の1 名)。

江戸川区の2015年度情報開示請求件数は399件。内訳はこちらから。

なお、コスト論について、品川区では、情報公開・個人情報保護条例に「費用負担」(31条)を設け、開示請求された文書の閲覧・交付ともに手数料の徴収を謳い、それぞれ1件につき300円を徴収しています。写しの場合、これに1枚10円が加算されます。

(*)自動車検査証に係る開示請求事件  国交省関東運輸局長に対してなされた請求の内容は、 「練馬の事務所での教習車の申請書一式すべて(全年度分)」「八王子の事務所 での教習車の登録をされ申請書等で専ら使用が書面で確認できないもの申請書一式 すべて(全年度分)」等。行政は、これに対応するためには、仮に職員1名を専従作業員とし、1日8時間全く休憩なしで、同じ作業効率で作業を進めたとしても、9か月以上かかることとなり、業務に著しい支障を来すのみならず、他の情報公開請求に対応する余裕がなくなり、かえって法の立法趣旨が没却されることから、本件開示請求は権利の濫用と認められるべきであり、不開示処分とすることが適当、と判断したことについて、その取り消しを求めて提訴された。本件につき、東京地方裁判所は、2003年10 月31 日、以下のとおり判示した。

「情報公開法においては、著しく大量の文書の開示請求であっても、そのことのみを理由として、不開示とする旨の規定を置いておらず、また、開示期限の延長を行うことで、通常業務と並行的に順次開示手続きを進行させていくことが想定されている。したがって、開示請求文書の開示に相当な時間を要することが明らかである場合であっても、そのことのみを理由として、開示請求権の濫用として、開示請求を拒むことは原則としてできない。開示請求に係る行政文書が著しく大量である場合又は対象文書の検索に相当な手数を要する場合に、これを権利濫用として不開示とすることができるのは、請求を受けた行政機関が、平素から適正な文書管理に意を用いていて、その分類、保存、管理に問題がないにもかかわらず、その開示に至るまで相当な手数を要し、その処理を行うことにより当該機関の通常業務に著しい支障を生じさせる場合であって、開示請求者が、専らそのような支障を生じさせることを目的として開示請求をするときや、より迅速・合理的な開示請求の方法があるにもかかわらず、そのような請求方法によることを拒否し、あえて迂遠な請求を行うことにより、当該行政機関に著しい負担を生じさせるようなごく例外的なときに限定される。」