国が地盤調査データ開示~スーパー堤防裁判のゆくえは?

北小岩1丁目のスーパー堤防事業につき、国が個人情報を盾に、地盤調査地点を特定できないよう被覆処理していた件について、東京高等裁判所民事19部(都築政則裁判長)は文書の提出を命令。国は500枚に及ぶ地盤調査結果文書を開示しました。文書では見づらい箇所もあり、改めてデータでの開示を求めたところ、追って明瞭なデータも開示されたとのことです。

文書開示について、国の主張を退け、住民側の主張を認めたこの裁判体は、9年間に及ぶ霞ケ浦導水事業の差止訴訟も担当。和解勧告、和解案提案という指揮を行い、4月27日、和解が成立しました。これに先立ち、流域の茨城県4漁協と栃木県の漁連が求めた証人尋問も行っています。

■霞ケ浦導水事業
霞ケ浦の水質浄化と那珂川、利根川の渇水対策、首都圏の水道・工業用水確保を目的に、霞ヶ浦と両河川を総延長約46㌔の地下トンネルで結び水を行き来させる計画。総事業費1900億円。2017年度末で1534億円を投入したが、完成区間は16.8㌔にとどまる。現在のエ期は23年度まで。

和解条項の骨子は次のとおりです。
(1)那珂機場での本格運用までの間、意見交換の場を設置。国は漁協の意見を聞き、本格運用の方法を決める。年1回、原則7月に開催。別に申し入れがあれば1カ月以内に開催。意見聴取のための専門委員会も設置できる。
(2)アユの仔魚(しぎょ)保護などを念頭に、本格運用までの間、毎年10月〜翌年1月の毎日午後6時〜翌日午前8時の14時間は那珂川からの取水を行わない。
(3)国は一定期間、霞ケ浦から那珂川への少量の試験送水を行い、モニタリングを実施。水質などへの影響を調査する。国は結果を踏まえ、漁業、特にヤマトシジミへの被害を与えない方法を検討する。

漁協側は、国が示す10、11月の夜間取水停止では不十分であること、霞ケ浦から那珂川への送水については、涸沼のヤマトシジミにカビ臭が移る恐れがあるなどと主張。これに対し、国はカビ臭物質は海水などで希釈されるとしてきました。和解条項には、漁協側の主張立証が反映されていると言えます。

傍聴席を埋め尽くした漁協、国側双方の関係者が見守る中、和解成立を告げた都築裁判長は「和解は終着点ではなく出発点。意見交換で納得いく結論を導き、双方に有益なものになることを希望する」と話されたとのことです。

結局事業は止まらない、と見る向きもあるでしょう。漁協側にとって、和解の受け入れは苦渋の決断だったかもしれません。しかし行政訴訟の昨今の状況を省みるとき、訴訟の成果が表れていると受け止めることができます。意見交換の場は7月に開かれる見込みとのこと。

さて、同じ民事19部によるスーパー堤防控訴審は?

第5回期日は未定ですが、開示された文書の分析・検討に基づき、控訴人側から何らかの対応がなされるものと思われます。その後、控訴人側が求めている証人採用へと展開していくのか、注目です。