八ツ場ダム予定地は、5つの地区に分かれ、それぞれ代替地が造られていますが、地価が高いこと、家は新築してもライフラインができていないこと、工事の騒音や震動でとても住める状況にない、などの理由により、移転世帯は、希望世帯129のうち、23世帯に過ぎません。
地盤の脆弱な地区では集水井という大きな水抜き井戸や横ボーリングの施設があちこちに見られ、地下水を排除することで地すべりを防止しています。ダム湖の貯水で地すべり斜面の地下水位を上昇させることになれば、地すべりの危険性をさらに誘発することにもなってしまいます。
現地を見て歩くと、いたるところに砂防ダムがあります。もろい地質というこの地域の特殊性が予想をはるかに上回る事業費増額の一大要因になっているといいます。
2002年に新しい場所に建てられた地元の小学校のすぐ上にも、砂防ダムがあります。砂防ダムがあるということは、そこが危険だと警告しているようなもの。学校裏手の山を削った部分には全面に「のり面保護工」も施されています。学校を新築するにふさわしい場所とはとても言えません。
学校移転当時の児童数が約50名であったことから、地元では統廃合の意見も出ましたが、ダム事業による生活再建事業が、税金の無駄づかいとの批判を浴びることを恐れ、廃校計画は中止されたといいます。結果、鉄筋3階建ての豪華校舎が造られました。しかし、現在の全校児童数は22名にまで減少してしまっています。
当初計画されたダム建設予定地は、地すべりの危険性が極めて高い場所であることがわかり、さらに吾妻渓谷寄りに予定地の変更がなされました。しかし、今度は「関東の耶馬渓」と言われる国の名勝・吾妻渓谷保存の声が高まり、建設地がまた当初の場所に戻されたという経緯があります。地すべりの危険性が確認された、まさにその場所が建設予定地になっているのです。
水没予定地周辺は、吾妻川が織り成す渓谷に加え、丸岩、堂岩、王城山などの山々が連なる、かけがえのない美しい自然に囲まれたところ。イヌワシやクマタカなど、レッドデータブックに載っている貴重な生態系の確認もされています。
長い歳月の中でつくり出された自然が壊され、住み続けてきた人々が流出してしまう、これが「公共事業」であってはなりません。
↓林地区には多くの集水井がある。(右)「八ツ場あしたの会」の方から説明を受ける。