これまでの議会答弁において区長は「住民の合意を得ずに推進することはしない」とし、土木部長も建設委員会で「地域の皆さんのご理解を得るまでわれわれが話し合いという立場から前には出ない」と答えています。しかし、実際には先行買収をすすめ、反対の意見も多い中で、部長の言葉を借りれば、話し合いという立場から前に出ている状態です。なぜ先行買収するのか、ということについては「早期の生活再建を願う人たちの思いに応えている」と説明していますが、しかしこのことが事実上、事業をすすめていることは間違いないところであり、この点をただしました。
担当課長の答弁は「(早期の生活再建に向け)住民の選択肢を増やしているとご理解いただきたい」とのこと。しかし、事業計画もない中では、移転や生活再建など考える段階ではありません。現時点においては、反対の立場をとる人たちとの丁寧な議論が必要なのです。区の住民説明は、事業への協力のお願いに終始し、区民の疑問点にしっかりと応え、ともにまちづくりを考える姿勢に欠けていると指摘しました。この大事な部分の調整が十分なされないままに、ことがすすめられようとしているのがいちばんの問題です。特に事業計画もないエリアについては、ゼロベースから住民と対話をし、住民意見を反映させたまちづくりをする姿勢が必要だと述べました。
先行買収のデメリットについては、区民側だけでなく、区にもデメリットがあることを指摘しました。先行買収は、いったん用地取得基金を取り崩して行われます。条例によりこの基金の上限は70億円とされていますが、区長の判断で積み増しできることが謳われており、その3倍の200億円にまで膨れています。区の基金の中で唯一運用できる基金であり、中身は現金と土地。土地の比重が高くなれば、土地の評価が下がった場合、大事な区の財産が減るということになります。また、事業化できなかった場合、虫食い状態で購入しているその土地の活用は見込めるのか、という問題もあります。
さまざまな課題を抱えながら、反対の声も大きい中で事業をすすめる区の姿勢は、さらに区民との信頼関係を崩していきます。区政における重大な局面と受け止め、選挙で選ばれている区長自身が区民と対話をする必要があるとただしたところ、区長からは「時機を見て考えたい」との答弁がありました。
この事業のすすめ方は、区が区民との協働をどのように描いているかを示す試金石です。ある男性は、これまで家と職場の往復で、まちづくりなど考えもしなかったが、自分の地区にこの事業が持ち上がったことで、真剣に考えるようになり、自分は江戸川区民なのだということを改めて自覚している、と話していました。この事業をきっかけに学習を重ね、まちづくりの課題に真摯に向き合っている区民の存在を大切にし、このような方々との対話を重ねることで、ともにまちづくりを考える姿勢を示していくことが求められます。