区では在宅での介護を基本とした施策を展開していくこととしており、基本方針に「医療と介護の連携」が明記されたことは大きな前進ですが、一方で「移送サービス」について何ら記述がないのは問題です。高齢者の在宅生活を考えるならば、こちらもはずしてはならない重要なポイントでは?
ひとの生活に移動は欠かせません。2年前の介護保険法改正では虚弱、あるいは引きこもりがちな高齢者のための施策が重要とされ、介護を必要としない状態を維持すること、介護が必要になってもその状態の軽減、または悪化を防止することを目的に介護予防事業が展開されるようになりました。こうした地域事業や買い物などに出かけるのはもちろんのこと、自力で移動することのできない介護度の高い方であっても病院やデイサービスに通ったり、日常の用足し、ときには遠出をするために、その手段が必要です。
リフト付き福祉車両などを使って移動困難者の外出を支援するサービスはすでに民間事業者が行なっていますが、確実にすすむ高齢社会を見据え、事業者や利用者と協議をしながら自治体として総合的な交通施策を打ち出し、すべての人の移動を保証する支援策を講じていくことが必要です。もはや路線バスに頼るのではなく、福祉や環境の視点から、コミュニティバスや乗合タクシーなども含めた自治体独自の総合交通戦略(モデル実験を予定しているレンタサイクルもこれに入ります)を立て、「移送サービス」もその中に位置付けていくことが確実な在宅支援につながるのではないでしょうか。
ところで、介護保険事業計画は、老人福祉法による老人福祉計画「熟年しあわせ計画」と同時に策定されていきます。前者が介護や介護予防の必要な人に対して、介護保険から給付される個別計画であるのに対して、後者は介護保険を包含してすべての高齢者が受けられる保健福祉の総合的な計画であり、介護保険事業計画を補完するものでもあります。冒頭の委員会名に等が付いているのは両計画を指すためですが、委員会の議論は介護保険に重点を置いて進められてきたようです(「中間まとめ」には老人福祉計画もありますが)。本来なら、介護が必要な人から必要のない人まで、すべての人が地域で豊かな生活を築けるための総合計画こそがまずは重要であり、その中で介護保険事業計画が検討されるべきではなかったかと考えます。