事実を踏まえた判決を、やれるものならやってみろ!~八ツ場ダム東京控訴審結審②

 八ツ場ダム東京控訴審では、地すべりの危険性や貴重な遺跡群の存在についても弁論が展開されました。 

 ダムサイトや住民の代替地での地すべりの危険性については広く報じられてもきており、住民からも災害発生への不安の声が上がっていました。国交省は重い腰を上げ、2010年10月から八ツ場ダム建設の検証を始め、地すべり対策を見直した結果、それまで対策工事を3か所としていたところ、実に16か所にも及ぶことが判明(甲D25号証)。これまでの調査や計画がいかに杜撰であったかを露呈するに至っています。ダムサイトでは110億円、代替地では40億円が新たに投入されることに。地すべりに関する国交省の認識は大きく変わり、ダムをつくれば、地すべりが多発する危険性を認めたからこそ、大急ぎでその対策計画をつくったと言えます。 

 しかし、この対策で十分とは言えません。控訴人が情報公開請求した「H22八ツ場ダム周辺地状況検討業務委託報告書」(甲D第28号証)を専門家が検証したところ、数々の問題点が存在することがわかり、これを意見書(甲D第29号証)として提出もしています。控訴人らが指摘していた林地区や上湯原地区の古期大規模地すべり地は対象外となっていたり、調査対象地でありながら湛水の影響を受けないとして12地区20か所も除外、「押え盛り土工」「頭部排土工」なる対策工法が、大きな抑止力を必要とする当地の対策として妥当ではない、などです。 

  被控訴人(東京都)は、地すべりの危険性がないことを主張・立証する責任を負いますが、彼らはその責任を果たしておらず、この状況で、従来の安全性の判断を信じよ、という方が無理というものです。しかしながら、原裁判所の裁判官たちは、こうした事実を突き付けられても被控訴人を信じるという、一般人とはかけ離れた、それこそ信じられない仕事をしていると言えます。準備書面17「地すべり」はこちら。 証拠申出書「地すべり証人」はこちら

 また、1985年に実施した、本ダム建設における環境影響評価では「影響はほとんどない」とされていますが、ダム湖に入る強酸性水が健康に及ぼす影響は重大であり、生活環境破壊については等閑視されています。さらに、ダム予定地には縄文時代の住居跡や天明浅間災害遺跡など、質量ともに豊富な遺跡群が存在しているのです。 準備書面20「危険性・最終環境書面」はこちら

 提起された事実に基づく疑問点を正視し、その陳述をよくよく傾聴して適正な法の判断がなされるべきですが、35年前に遡った意図的な利水データ、上流での大氾濫を納得させようとつくられた「洪水、山に上る」氾濫図を鵜呑みにする司法とは何? 三権が泣くというものです。最終陳述を行った弁護士の一人は、「裁判所には期待しない。事実を踏まえた判決を、やれるものならやってみろ!」と言い放ち、控訴人・傍聴者はいくらか溜飲が下がりました。その判決は来年3月29日(金)午後1時半から、東京高裁大法廷にて言い渡されます。

 準備書面21「求釈明」はこちら。準備書面22「被控訴人準備書面5に対する反論」はこちら

 治水想定・生活環境破壊・押え盛り土工法、そして司法のあり方、どれも江戸川区におけるスーパー堤防事業に共通の大きな課題です。