「執行停止」と「審査請求」~江戸川区スーパー堤防と一体の区画整理事業
「江戸川区スーパー堤防取消訴訟」は、北小岩1丁目東部土地区画整理事業計画の取り消しを求めるもの。裁判係争中であるのに、計画がすすむことについては、住民側からすれば腑に落ちませんが、処分取消の訴えの提起がなされても、処分の効力、処分の執行または手続きの続行は妨げられないという原則があります。これが「行政事件訴訟法」25条1項の「執行不停止の原則」です。これは、行政運営を円滑に行うため、また、濫訴の防止のため、とされています。しかし、その行政行為が違法で、無効なときまで、行政活動の円滑性を保証する必要は全くなく、この円滑性は常に理由とはなりえないという問題点があります。
そこで、原則は「執行不停止」ですが、同条2項に「執行停止」が定められています。「執行停止」申し立ての要件は、①本案訴訟である取消訴訟が行われている②執行停止の対象となる行政処分が完了していない③回復困難な損害を避ける緊急の必要がある という3つです。裁判所は、「執行停止」の申し立てにより、処分の全部または一部の停止をすることができます。「執行不停止の原則」が貫かれれば、原告に著しい損害が生じ、せっかく勝訴しても原告の権利が実際に救済されない場合がありうることから、原告の権利を確保するために規定されたものです。
要件を満たす取消訴訟原告らが東京地方裁判所に、この申し立てを行ったことを前回お伝えしましたが、一方で、当該住民は「行政不服審査法」に基づき、上級処分庁である東京都に対し、「審査請求」をすることもできます。訴訟に比べ、簡易迅速な手続きによって権利利益の救済を図り、同時に、行政の適正な運営確保を目的としています。やはり原則は「執行不停止」で、「執行停止」は例外措置。裁判で言う第二審に該当する「再審査請求」もあります。
訴える相手が異なるだけかと言えばそうではなく、行政訴訟は「違法」のみが争われ、それが認められれば「取消」となりますが、不服審査は「違法」及び「不当」が問われ、「是正」及び「取消」が導かれることに。今回、仮換地指定を受けた権利者であれば、誰でも審査請求することができ、その意思を示している方々も。
さらに両者の大きな違いとして、行政訴訟には「内閣総理大臣の異議」があります。「執行停止」の申し立て及びその決定について、「行政事件訴訟法」27条は、内閣総理大臣に異議を述べることを認め、異議が述べられたときは、裁判所は執行停止をすることができず、また、すでに執行停止の決定をしているときは、これを取り消すべきものとする制度を設けているのです。バリアは幾重にも施されている・・。
ところで、8月5日(月)の朝日新聞朝刊には「スーパー堤防、有効か 「無駄」と批判、震災受け復活 首都・近畿圏の低地限定」の記事が全国版に大きく掲載されました。丁寧な取材がなされ、北小岩を上空から撮影したカラー写真からは、当該エリアが蛇行の内側にあり、破堤がおよそ考えられないこと、河川より広い高水敷があること、つながってこその堤防整備が点に過ぎないことが一目で見て取れます。
なお、江戸川区は除却通知及び照会をすでに権利者に送付しており、自ら建物を除却するかどうかについて、9月中の回答を求め、直接施行(強制執行)へのプレッシャーを強めています。
*「行政不服審査法」については、50年ぶりに見直しがなされることになっています。 内閣府が発表している、改正に向けた「国民の声」はこちらから。