決壊に至る時間を引き延ばす堤防 > スーパー堤防

 7月10日(金)、利根川流域市民委員会の要請により、国土交通省のヒアリングが行われ、スーパー堤防問題に取り組む市民も参加の機会をいただきました。市民ネットワーク千葉の入江あき子千葉県議会議員、自民党の秋本まさとし衆議院議員(千葉9区)のお取り計らいによるものです。秋本議員は、国土交通委員会委員で、党再生可能エネルギー普及拡大委員会事務局長も務められる、自民党青年局次長です。自民党の行政改革推進本部本部長で無駄撲滅プロジェクト座長の河野太郎衆議院議員、利根川・江戸川有識者会議委員の大熊孝新潟大学名誉教授も同席されました。

 脆弱な堤防を抜本的に改善して、想定外の洪水にも備える堤防強化工法の開発と普及が河川行政においては極めて重要ですが、これまで国交省は、「(そのような工法として)スーパー堤防以外持ちえない」としてきています。しかし、想定を上回る洪水対策がまったなしの課題であるならば、何百年かかるか想定できず、莫大な費用の見当も付かないスーパー堤防に依存していては、いつ起きてもおかしくない自然災害から国民・国土の安全が守れないことは自明です。現状、利根川・江戸川は、洪水時、浸透によるすべり破壊、パイピング破壊の危険性がある堤防は6割以上に及ぶのです。6月9日の国土交通委員会で、初鹿明博衆議院議員の質問に対し、「30年間の整備計画における利根川・江戸川の堤防整備達成率は36%」と回答しています。 

 代替工法として、従前から大熊孝さんらが求めている有力な堤防強化技術にTRD工法やハイブリッド堤防があります。これについて、土堤原則を掲げる国交省は、鋼矢板などは土の堤防に異物を入れることになる、との理由で認めていません。しかし、TRD工法は、大河津分水の洗堰新築工事(新潟県燕市)で、ハイブリッド堤防(鋼矢板)は、仁ノ海岸堤防改良工事(高知県高知市)で、直轄工事に導入しているという事実があります。つまり、有効な堤防事業として採用しているということ。この事実を前に、 土堤原則を根拠に、今なお他の工法を認めないとはどういうことでしょう?

 これについて問うと、「海岸と河川という根本的な違いがある。海岸は、繰り返す波、砂のぶつかりなどがある。」とのこと。回答のとおり、そのような状況に耐えうる堤防として海岸に採用されているならば、河川に採用するのに何の問題もないどころか、すべきでは? と思わずにはいられません。 

小松川スーパー堤防下を通るボックスカルバート

 国交省は、土堤原則ゆえに、土以外の物質を混入してはならないと言いながら、実は、都立大島小松川公園のスーパー堤防内にも、コンクリート製ボックスカルバート(トンネル道路)を通過させています(写真)。昨年事業認可が下りた都立篠崎公園周辺の補助288号線も同様の構造が示されています。市川市のスーパー堤防上の大型マンションの地下には駐車場が設置されており、これも十分異物。行政の説明と現場の実状には大いなる齟齬があります。しかし、これについては「土と固い材料には剥離が生じ、空洞化や、水みちがつくられるので採用していない」とこれまでどおりの回答。 

 1時間のヒアリングを終え、河野議員は「工法については専門家が十分議論することが必要。予算には限りがあり、公共事業は古いものの補修に予算を喰われる。この上、どこまでやるのか。堤防は切れたら水がまわる。ここだけ、というわけにはいかない。」と話されました。河野議員は以前、上空からスーパー堤防事業の実態を視察されてもいます。 

 また、大熊孝さんは、長年の河川現場の研究に基づき、「治水の要諦は、通常堤防の工夫、強化により、越流しても破堤しない堤防を構築すること。すでに効果も出ており、技術的に可能な段階」と話されていました。 

 今回、回答が不十分であったなどの内容については、追加も含めた質問を秋本議員がとりまとめられ、改めて文書質問を提出することになりました。