憲法改正、そもそもの誤り⑧「緊急事態」の危険性
【98条 緊急事態の宣言】*新規
<草案>
内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言をすることができる。・・
【99条 緊急事態の宣言の効果】*新規
<草案>
①緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる。・・③緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、・・当該宣言に係る事態において・・発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、・・基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
解説: 国会を通さずに、20人の内閣で、国会に変わって法律と同じものをつくることができる。何人もその指示に従い、その際、基本的人権は保障ではなく、尊重されるだけである。尊重と保障はレベルが違い、尊重では、国民が我慢する範囲が大きくなり、明らかにレベルを下げることになる。人権侵害につながる懸念も。ドイツなどもこうした条項を持っており、このこと自体が立憲主義に反するとは言えないが、すでに述べたとおり、これを誰が言うのかが大きな問題である。緊急事態には、あれこれ命令できることになり、緊急事態に名を借りた権力濫用、議論のすり替えである。
【憲法尊重擁護の義務】
≪憲法99条≫
天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
<草案102条>
①全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。②国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う。
解説: ①として新たに国民を規定したが、憲法を守るのは現行条文にあるとおり国務大臣や国会議員などである。憲法は国民が自らつくったルールであり、国民のことは書く必要はない。②では、天皇をはずしているが、これについては自民党憲法改正草案Q&Aにも説明はない。畏れ多くも義務を負う、とは言えないということか。国会の召集は天皇の国事行為であり、地方議会の招集とは一線を画し、未だ「召集」という文言が使われている。天皇は招くことはせず、あくまでも、召す、ということか。
*解説は、昨年10月27日(火)、東京・生活者ネットワーク「国政フォーラム」での神奈川大学・金子匡良准教授の講演から。
安倍首相は、「緊急事態」条項の新設を憲法改正の足掛かりにしたいとの意向を示しています。そのココロは、「緊急事態への体制強化」である以上、一般的に国民の理解を得やすい、との考えにあるとか。しかし、多くの憲法学者から、この規定のあいまいさ、他国の考え方・あり方とのかい離、そして権力の濫用など、その問題点が指摘されています。
これまでご紹介しただけも、自民党の憲法改正草案は日本国民、国家にとってきわめて危険な要素が盛り込まれていることを知り、よく考え、一人ひとりが主権者としての意思を強く打ち出すときだと思います。