「下流優先」の堤防整備はなされていない~鬼怒川大水害訴訟控訴審②

国はプレゼンテーションの中で改めて「鬼怒川は治水安全度を念頭に、原則として低い箇所を優先し、下流から上流へと整備が進められてきた」と陳述しました。施行者ならば「進めてきた」と言えばいいのに、なぜ「進められてきた」と言うのでしょうか。素朴な疑問。国の陳述書はこちらから。

では本当に低い場所で整備が進められてきたのか。

1984(昭和59)年の「大東水害訴訟」最高裁判例では、改修計画について「改修を要する緊急性の有無及びその程度を考慮し、改修を要する場所の工事の時期・順序が定められる」とし、「実施計画も定めるもの」と判断しています。

しかし国は、「判示された改修計画とは工事実施基本計画等であり、改修を要する場所の工事の時期・順序(改修手順)を定めた実施計画は含まれない」と主張しており、片倉さんは「国は改修計画の考え方を勘違いしている。国の方が(最高裁判例に基づかない)独自の考えだ」と指摘されました。

さらに、国が提出した堤防整備状況の図面に照らし、下流の「現実の世界」の状況を説明。

・1979年の事業着手から22年間で4kmしか整備されていない

・計画堤防高の確保状況は中流区間(栃木県側)94%に対し、下流区間(茨城県側)は56%

・常総市はほとんどが暫定整備か未整備

・同市下流の豊岡地区は2002年、元町は2015年に溢水

・その下流のつくばみらい市の左岸にある幼稚園は2015年と、2019年の台風19号で2度の氾濫被害にあっている

こうした数々の事実から、

「堤防整備の『下流優先』は言っているだけで実際には行われていない」

「上三坂地区や若宮戸地区の改修遅れを『下流優先』などとして正当化しようとしている」

と断じました。

 

*片倉さんは、2022年6月、江戸川沿川3ヶ所の高規格堤防の視察にも見えています。「かわばた通信」2号2面でご紹介しています。

*「かわばた通信」は「東京の水連絡会」のHPからすべてご覧いただけます。こちらから。