「遺伝子組み換えじゃがいも」実験延期に思うこと

東大大学院農学生命科学研究科が、西東京市にある試験圃場で「遺伝子組み換えじゃがいも」の実験を行う計画を発表したことに伴い、地元説明会が4月27日と5月7日の2回開かれました。この実験は、じゃがいもの収量や品質を決定するメカニズムを解明するため、とうもろこしの遺伝子を組み込んだじゃがいもの屋外実験をするというものです。
私は、7日、地元説明会が終わってから都庁で開かれた説明会に出席しましたが、その中で担当の教授から、5月12日に行われる予定だった植え付けの延期報告がなされました。直前に行われた地元説明会の席で「花粉の飛散による一般作物への混入が心配」「風評被害が懸念される」など、市民から反対の声が続出。即、延期の決定をせざるを得なくなったようです。住民の意向を汲んで、その日のうちに延期の判断をしたこと自体は評価できることだと思います。
 しかし、この研究の目的や意義、これまでの開発経緯や安全性評価などについて、一連の説明を聞けば聞くほど、研究の必要性に疑問を感じずにはいられません。「モデル植物と考えているので、市場に出すものではない」「効果があった場合でも、食品につながるものではない」など、それならすでに終了している室内実験で十分ではないかと思います。また、「花粉飛散の心配はない」と繰り返しますが、植え付けが行われる予定場所のすぐそばはもう民家。ブロック塀で仕切られているだけです。風の流れに区切りはありません。これで飛散の心配がないと言えるでしょうか。
さらに、研究の意義の中に、「地球温暖化対策」とあるので、いったいどういうことなのかと疑問に思いましたが、そのココロは「高温でも栽培できるので、今後地球温暖化がすすんでも大丈夫!」というもの。それってフツーに言われるところの「温暖化対策」に逆行する発想じゃない? また、今後の植え付け計画については「しかるべきところと相談して決めていく」とのこと。しかるべきトコロとは、専門機関と推測しますが、この研究に関して、東大のこの研究室以上に専門的なところってあるんでしょうか。説明の中でも「安全については文部科学大臣の認定を受けている」と何度も話されましたが、文科省はこの複雑な要素が絡んだ研究を総合的に判断するだけの材料を本当に持っているのでしょうか。
ここ数年、日本でも遺伝子組み換え作物の実験開発の動きが相次いでいます。しかし、愛知県や北海道などでの遺伝子組み換えイネの開発が、地元だけでなく全国の市民からの強い反対の声によって中止に追い込まれています。今回のじゃがいもについても、こうした説明を繰り返すだけなら、住民の合意を得ることはいつまでたっても無理でしょう。科学技術の先端を行く専門家たちの発想は、一般市民とはかなりかけ離れている(だから専門家なのでしょうが)ということを改めて実感した説明会でした。