八ツ場ダムの構想が浮上したのは1952年、ダム計画ができたのは1965年であり、構想からすでに57年もの歳月が経っています。この間、世の中の状況は様変わりしました。ダムの必要性もダムに対する考え方も大きく変化していることは、昨年来、地方の意向により、国のダム計画が相次いで撤回・凍結されていることからも明らかです。八ツ場ダムとて例外ではありません。さきほどの趣旨説明に沿って、その理由をまず4点申し上げます。
第1点目は治水についてです。八ツ場ダム計画は1947年のカスリーン台風の大洪水を基準につくられましたが、根拠となっているさまざまな調査結果や評価が恣意的に用いられていることが判明しています。詳しいデータは後段で述べることとし、ここで指摘しておきたいのは、カスリーン台風による被害の最大の要因は、戦時中の山林の乱伐によるものと総括されていることです。今日、森林は生長し、一方で、日本の高い技術力による堤防強化がすすんだことによって、氾濫の危険性については当時より格段に低いものとなっています。
2点目は利水の面において、首都圏では水はすでに余っているという事実があることです。東京都は2003年に、10年後の2013年における1日の最大配水量を600万㎥と予測しました。これは、それまでの予測を下方修正したものですが、それでも非常に過大な予測値となっています。なぜなら、実際の1日最大配水量は、1978年の645万㎥がピークで、その後緩やかな減少傾向となり、1992年以降は着実に減少し、2008年には488万㎥まで減っているからです。これに対して、東京都の保有水源量は現在687万㎥もあります。都が公表している数値はこれより低い623万㎥ですが、この中には実際に使われ、国が認可している地下水が含まれておらず、ほかの要因も含めて、都は保有水源量を過小評価しているのが実態です。都の現実の水需要と供給可能量にはすでに日量200万㎥もの差異が生じており、今後人口減少が見込まれ、省エネ・省資源の意識がさらに高まる中においては、東京都の水余りはより顕著になっていきます。
3点目は、渇水の見解についてです。渇水時の川の流れを維持する役割を担うのは、主に森林であり、ダムの役割は大きくありません。渇水を心配するのであれば、ダムを建設するよりも、未だ目標の3分の1程度しか達成されていない森林整備にこそ力を注ぎ、自然の保水力をさらに高めることが肝要です。
4点目は、「気候変動に関する政府間パネル報告書」の見解についてです。地球規模の気候変動予測に対し、その適応策としてダム建設をすすめるよりも、温暖化そのものをストップさせる対策が最優先されるべきです。予測に基づく適応策ではなく、むしろ私たちのライフスタイルを見直す緩和策を講じるための材料として、まずは活用していくべきと考えるものです。
現在、1都5県で「八ツ場ダム」に関する住民訴訟が提起されていますが、この中で都は昨年、渇水の発生割合をそれまで5年に一度としていたものを、10年に一度と改めました。この変化は、水余りを否定できなくなったからに他なりません。また、国は、カスリーン級の台風が再来すれば、八斗島地点を毎秒2万2000㎥の洪水が襲い、関東平野では大氾濫が起き、34兆円もの被害が出ると広報してきました。しかし、この根拠は、利根川のいたるところで堤防が決壊するという、現実にはありえない想定によるものであり、被害を巨大に見せるための計算でしかありません。事実、訴訟の際の情報公開請求により、そのような降雨があったとしても、毎秒1万6750㎥しか流れないことが明らかになっています。さらに、証人尋問に立った関東地方整備局の元河川部長は「上流域において、どこでどれだけ溢れるかを調べたことは一度もない」と証言しています。現状において、八斗島地点から下流部にかけては、すでに毎秒1万6500㎥を流すだけの河道は確保されているのですから、今さらダムをつくる必要などありません。
もはや、治水面においても、利水面においても所期の目的を果たす道理はなく、多額の税金を投入し、下流部で不要、上流部で迷惑なダムをこれからつくるなど論外です。半世紀前の計画ありきで、こうした現実のデータや状況を無視し、やみくもに推進することを認めるわけにはいきません。
以上、八ツ場ダム建設の撤回を求める立場から、本意見書には明確に反対することを表明いたします。
議員各位のご賛同をいただきますようお願い申し上げ、反対討論を終わります。
*結果 反対14 賛成29 で 残念ながら意見書を提出することに。