先日、区長が副会長をされている「江戸川改修促進期成同盟会」が、八ッ場ダムの治水効果と必要性の再検証を求める意見書を提出したが、スーパー堤防事業についても、同様の観点が必要だ。
治水対策はどのようなリスクをどの程度想定するのかで、整備の内容が大きく変わってくる。改めてこれまでの区の説明に照らして、基本的なところを3点確認する。
①今年4月、国土交通省港湾局が「東京湾の大規模高潮浸水想定」を発表した。レベルAからFまで6つの段階に分かれているが、江戸川区は、「全水門開放及びゼロメートル地帯で破堤・室戸台風級、温暖化による水位上昇を考慮」するという最大規模のレベルFの状況になっても「浸水しない」と示されている。このときの最大浸水面積は27630haに及び、江東区や浦安市など、東京湾沿岸自治体がどこも浸水する中、江戸川区は被害に遭わないと発表されている。区はこれまで、東京湾に面していることで、異常潮位による高潮で壊滅的な被害を受ける、としてきたが、改めて見解を伺う。
→葛西臨海公園の高潮防潮堤が区を守りうる施設であることが証明されたと受け止められ、区にとっては喜ばしいことだが、区のこれまでの説明とは異なる事実であることを指摘する。
②江戸川の浸水想定区域について。
二定において、八ツ場ダム建設推進を求める意見書に対しての反対討論でも申し上げたが、この想定は、江戸川のいたるところで堤防が決壊するという、現実にはありえない想定によるもの。しかし、スーパー堤防事業の必要性について、区はこの想定をひとつの理由にしている。ありえない想定についての見解を伺う。
→この想定は、江戸川河川事務所がコンサルに委託してつくったもので、おおむね4㌔ごとに破堤箇所が設定されている。自分の住んでいる地点に近い場所が破堤した場合、最大どれくらい浸水するのかを示そうとしたもので、それが一枚のマップに落とされているため、浸水面積は55平方km、被災人口は65万人、被害額は14兆円と、非常に過大な想定となってしまっている。しかし、この過大な想定であっても、実は江戸川区は荒川と中川の間は浸水しないと明示されている。
さらに、八ツ場ダム建設の前提として説明されている、カスリーン台風が再来したときの被害が昭和22年当時より拡大するとされているが、およそ考えにくい。この60年、森林整備や堤防の嵩上げや補強、河床の掘削などに最新の技術を駆使して、巨額の経費もかけてきたことが何の意味もなかったことにもなり、国交省は過去の河川改修を自ら否定することにもなってしまう。
また、荒川の浸水想定は、平成19年10月に内閣府から発表されており、江戸川区は200年に一度だけでなく、500年に一度の洪水に見舞われても浸水しない、とされている。
区は、ひとたび堤防が決壊すれば、区のほぼ全域が水没すると説明してきたが、こうした資料からはそうは読み取れない。内閣府の判断は、やはり日本の高い技術力によって、長年地道な河川改修を行なってきた成果を評価しているのだと考える。
③液状化について。スーパー堤防整備方針には「河川沿いは大地震の時に、地盤が液状化する可能性が高い」と明記され、特に江戸川沿いは液状化の危険が高いとのことで、北小岩、篠崎地区を優先的にすすめる理由として繰り返し説明してきた。液状化については、区の「まちづくりニュース」にも、ボーリング調査により、砂質層の有無、砂層の厚さ、地下水位などによる工学的判断がなされている、など精度の高い調査によるものであることが、掲載されている。区がこの地域を液状化の可能性が高いとする根拠は、ボーリング調査の結果という認識でいいか。
→東京都土木技術センターの「東京の地盤」についての報告資料によると、北小岩、東小岩、篠崎公園などは、地盤の強度を示す試験結果であるN値が極めて高い地区と示されている。同じ江戸川沿川の葛飾区の柴又公園と東金町は、すでに一部スーパー堤防になっているが、ここも北小岩と同じく地盤が良いため液状化対策はなされていないのが実状。
川辺川や大戸川、中部ダムなど、これまでに中止や凍結されたケースに共通しているのは、事業の必要性を徹底的に調査する中で、その前提となっていたデータが誤っていたことが明らかになったこと。
国の動きも含め、事業の必要性が問われる中、改めて区民とスーパー堤防事業の必要性を再検証すべきでり、11月に予定されている都市計画決定を諮る都市計画審議会は延期すべきと考える。また、予算委員会で、区長が区民と直接対話することを提案したとき、時期を見て考えるということだったが、今がまさにその時である。
一般質問では、多額の税を投入する大型公共事業の必要性と費用対効果はますます厳しく問われると申し上げた。
まちの安全性を高める事業とはいえ、副作用も非常に大きく、住民の負担が大きいこと、コミュニティを壊しかねないこと、そして景観や歴史財産を失うことが懸念される。
災害時には自助、共助が大事だとはよく言われるが、これは子育てや介護などの日常にも言えること。さらに、請求資料にもあるとおり、景観計画策定に向けて行なわれている作業部会の中でも、篠崎や北小岩は歴史的な景観が高い評価を得ているところであり、まちづくりの名の下に、日本のどこにでもあるような街並みへと姿を変えてしまうとなれば、やはり失うものの大きさを思わずにいられない。
水害は、地震と異なり、避難するのに比較的時間がある。災害への住民の対応意識を高め、避難することで全員の命が助かる、ということも立派な水害対策だ。
脱ダムの動きがある中では、これまで以上にさまざまな堤防強化策の検討がなされるはずであり、やはりここで今後のことを改めて見極める必要がある。
このまま進むべきかどうか、いったん立ち止まって、区長も住民も、ともに考えるときである。行政主導ではなく、区民の意見を尊重し、協働によるまちづくりへと転換していくべきだ。