本事業は、2010年度末に事業認可をとっていますが、「先行買収した土地は2279㎡、総額12億8千万円余」。先行買収を始める前と今の、地権者と人口の変化は、「地権者88人が69人に、人口は当初255人に対して、今はどうなっているかわからない。」と課長。
つまり、地権者19人が用地買収に応じ、すでにこのまちを去ったということ。スーパー堤防事業も区画整理事業も買収を前提とせず、一度は移転するものの、工事が終了したらそのまちに戻り、安全性・利便性が向上したまちで暮らし続ける、住民のための事業。しかし実態は、不安定な時期が長く続き、そこに住み続けられなくなる、まちを出る選択を余儀なくされる、コミュニティが壊れる、といった致命的な代償が。まちづくり事業にあらず、まち壊し事業、と言われるゆえんですが、こうした現実は当該地区以外の方々には知らされません。また、「国の治水事業であり、零メートル地帯には最適」と強弁し、東日本大震災の津波被害を盾にとるかのように、本事業をよく知らない多くの人をかく乱。連続地中壁工法、フロンティア堤防など、住民に負担をかけず、もっと効率的に短期間でできる高規格の方策がありながら、それはまったく検討されません。
以前、朝日新聞が、出生率が下がり続ける中で江戸川区では上がっていることを「江戸川区の不思議」として社説で紹介しましたが、今のフシギは、事業仕分けで一旦廃止とまで判断された本事業に固執するのは江戸川区だけ、ということです。たとえ零メートル地帯を抱える区であっても、江戸川区以外に、方針や計画を持つ区はありません。
このフシギのココロは、「国のお金でまちづくりができる」という、以前の区の説明が示す通り、国の交付金、補助金をあてにして、ここまで強行してきたことに他ならないでしょう。わずか1.4ha のこの地域ですでに用地買収に13億円余。同じ江戸川沿川の篠崎公園地区では、買収費・移転補償費などに40億円もが投入されています。本事業が廃止されるかもしれない状況の中でも、区は推進の手を緩めず、区の用地取得基金から50億円以上もを拠出。事業継続ならば、こうした費用が国から補てんされることから、何としても回収したい、その一心でしょう。
スーパー堤防事業費は河川費であり、全額国費。これに伴う区画整理事業については、国から①区画整理事業費国庫補助金②区画整理事業費国庫負担金があり、②は、スーパー堤防事業に関する特別措置であり、通常の区画整理事業には出ないものです。また、東京都からは①区画整理事業費都市計画交付金を受けられます。このしくみの中で、平井7丁目、わずか1.2haの同事業では、総事業費83億円のうち、区の実際の負担は1億3900万円で済んでいます。北小岩1丁目の総事業費は43億円ですが、国と自治体のアロケーション(費用負担)はほぼ同様になると思われます。
東日本大震災の復興に莫大な費用がかかることも考え合わせ、すでに予定や構想があった事業をどうするかを含め、今後の公共事業のあり方を国全体でトータルに考えていかなければなりません。財源の捻出に苦慮する中、いったん廃止とされたスーパー堤防事業をもし進めるのであれば、「高規格堤防の見直しに関する検討会」がとりまとめの中で指摘している投資効率の確認作業、また、最も脆弱で緊急性の高い地区の選定作業といったプロセスを踏むことが必要最低条件です。