丁寧な合意形成はどこへ?~江戸川区スーパー堤防と一体の区画整理事業

 7月16日、江戸川区が「北小岩1丁目東部土地区画整理事業」における権利者に郵送した「仮換地指定通知」には、従前の(今住んでいる)宅地について使用し、収益することができなくなる日を本年12月16日と示していますが、一方で、今回新しく指定された街区である仮換地について、使用・収益できる日は別に定めて通知する、と書かれています。住民からしてみれば、今住んでいる宅地を「従前の」と表現することに加え、重要な市民の権利について、このようにあやふやな通知がなされることが「行政処分」であることに大いに違和感を覚えます。 

 建物が密集していない地域で行われる区画整理事業は、「直接移転」といって、仮換地を使用可能な状態にした上で、居住や営業などの場所が従前地から仮換地へ直接移るよう建物移転することもできます。この方法であれば、仮住まいの必要がなく、事業としても仮住居費等が不要となり、事業費も抑制できます。 

 しかし、密集市街地の区画整理は、各々の建物が他の建物移転や公共施設整備の障害となることから、一旦そのエリア以外に出て、そこで仮住まい等をすることを余儀なくされます。上の方法に対し、こちらは「中断移転」といいます。従前地でも仮換地でも使用・収益できない中断期間が存在するためです。中断期間中は仮住まいをし、そして仮換地の使用・収益権が開始されたら再移転するのです。

 区画整理はエリア内をさらにいくつかに分けて少しづつすすめることもできますが、本件地区の場合、区画整理の前に盛り土をするスーパー堤防事業がなされる計画ですから、同時期に一斉に建物を壊し、更地にする必要があり、これが通常の区画整理と大きく異なる点です。そのため、中断の期間は延び、仮住まいが長い期間に及ぶことになります。 

 お伝えしているとおり、当該地では事業説明当初から反対の意見が多く、現在も66人の権利者のうち、11名が行政訴訟の原告となり、区に事業の取り消しを、さらにここへ来て9名(高齢者原告のお一人は逝去、もうお一人もまちを出ることに)が執行停止の申し立てを行うに至っています。 

 こうした住民にとっては、建物の取り壊しは、所有者の責に帰すべき事由によって生じたものではなく、区が主導してすすめる中で、一方的に求められていること。すでにまち、コミュニティができ、平穏な生活を営んでいたところに、望んでもいないことがすすんでいく―。これが果たして公共の福祉に叶っているのか。一連のプロセスには、市民にとって最大の財産とも言える宅地・建物について、所有者保護の、そして生活権・生存権保護の観点が余りにも脆弱だと思わされます。 

 移転補償費を算定するための建物調査も、建物の現状に則って行われる(築40年なら40年なりの評価)ことから、仮換地の街区に同程度の建物を新築するに足る保障はなされず、ここでも負担を強いられることに。高齢者はなおのこと。 行政の言う「協力」とは「損」を、「理解」とは「諦め」を強要すること?

 かつて決まり文句のように「合意を得るまでひざを交えて話し合いをすすめる」と言っていた江戸川区は、「仮換地指定通知」(配達証明)の受け取りを拒否した方の氏名を、地区事務所に掲示・公表しました。これは「公示送達」といい、公示することで通知が行き渡ったとする公式の手法です。しかし、その前に、区は直接受け取ってもらうための行動を取るべきでしょう。それが丁寧な合意形成への努力のはず。法に則って進めているのだから、文句は言わせない、という態度は、住民に最も身近な政府がとるべき姿勢ではありません。