原告2名が心情を吐露~江戸川区スーパー堤防取消訴訟結審③

 原告からは、男性(60代)と女性(80代)の2名が証人尋問に立ちました。 

 男性は、高木一昌弁護士の問いかけに沿い、まず区の対応について証言。2006年頃から、女性や高齢者しかいない平日の日中に複数の担当者の訪問を受け、「スーパー堤防になるから資料を読むように」などと言われたこと、説明会で「雨上がりにこの地区を通るとかび臭い。家の中は湿地帯みたいだろう。この事業でその状況を解消する」と、事実と異なる、住民に対して極めて失礼な発言(録音証拠提出)があったことを述べました。

 さらに、区は、都市計画決定を行う前の2008年に地区内の6階建てビルを先行買収、その上で、住民に土地を譲るように働きかけることにより、すでに事業が始まったかのような印象を与えたこと。かつて水害の被害はなく、家族が救急車で搬送されたときも道路等に問題はなかったこと。現在の住まいは亡くなった親と共同で建て、防音室や二重サッシを施し、水回りも二世帯分備え、また、両親が丹精込めて育てた庭木などもあり、とても同程度の家を再築できないこと。盛り土の不安定さに加え、1階がJR線路と同じ高さになることから今以上の深刻な騒音被害に見舞われること。みんなが顔見知りで仲の良かった地区がこの事業により分断されてしまったことなどが述べられました。

 最後に、「高齢者や弱い人にとって大きな負担を強いる本事業は全うなものではなく、合意なしの事業強行はあってはならない」と訴えました。 

 裁判長からは、「生活不安のことを区に話したか」「補償の話はいつ頃あったか」などの質問がなされました。男性は「(スーパー堤防との共同事業により)二度の移転を要し、しかも中断が長いなど、普通の区画整理とは似ても似つかない」ことなどを語りました。 

 女性の証言は、杉田敬光弁護士の問いに答える形で進みました。(ご自身が)子どもの頃から、江戸川区で水害になるのは船堀や中央地区で、現在もそうであり、当地区は洪水とは無縁で、盛り土など必要ではなく、かえって崩れる心配があることが述べられました。この事業により、とても仲の良かった同世代のご夫婦が不本意ながら先行買収に応じてまちから出て行ってしまったこと。昨年末の火災では自宅も延焼の被害を受けたが、消火活動は支障なく行われていたこと。50代で夫を亡くしてから女手一つで子どもを育て、姑の世話をし、守ってきた家を立ち退きたくはなく、遺族年金では家の再築などできず、仮住居も決めていないこと。仮に一時期移転したにしても、年齢的に戻れるわけもなく、どうしていいのかわからない、と心情が吐露されました。 

 こうした原告の主尋問に対し、被告側からの反対尋問は一切なし。

 なお、被告証人に対しては、右陪審(裁判長の次のキャリア)から、都市計画決定時と事業計画決定時の事業予算について、さらに、裁判長からは2006年時のスーパー堤防事業の区の説明について、それぞれ質問がなされました。「それ以前に、単なるまちづくり、単なる区画整理の話はしたことはないのか」との問いに、被告証人は「はい」と答えていました。

 折しも当日午前、都内に接近した台風26号により、江戸川区では22件の床上浸水の被害がありましたが、女性の主張どおり、今回の被害地区も江戸川沿川ではなく、内陸部の中央や北葛西(船堀の隣り)などでした。

*裁判傍聴者に、スーパー堤防取消訴訟を支援する会から配布された陳述書の抜粋はこちらから⇒「陳述書からにじみ出る苦悩