もうひとつの逆行「国土強靭化」
権力の暴走による特定秘密保護法成立を阻止しようと、大きな国民的運動が展開されていた中、それに隠れるように、昨年12月4日、「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靭化基本法」が賛成多数で可決・成立しました。すでに同月11日に公布・施行され、本部長を安倍首相とする「国土強靭化推進本部」は、法施行直後、本法に基づく「国土強靭化政策大綱」と「大規模自然災害等に対する脆弱性の評価の指針」を決定しています。
本法は、2012年、下野していた自民党が「国土強靭化基本法」として国会に提出したものの審議されることなく廃案となり、2013年5月の第183回通常国会に、同党と公明党から、「防災・減災」の冠を付けた「防災・減災等に資する国土強靭化基本法」として提出されていました。これが同年10月召集の臨時国会において、衆議院での修正案審議を経て、前述の法律名に改められたものです。
法名の変遷からもわかるとおり、公共事業バラマキの批判を回避しつつ、公共事業を推し進めていくために、「防災・減災」という文言を入れ、国民の理解を得ようとしたことは想像に難くありません。最終的に、「大規模災害等」の文言が「大規模自然災害等」に修正されたり、前文が追加されたのもそのためでしょうが、自民党の当初案どおりの条文も多く、国土強靭化に協力しなさい、とする「国民の責務」もその一つです。
第5条【事業者及び国民の責務】事業者及び国民は、国土強靱化の重要性に関する理解と関心を深め、国及び地方公共団体が実施する国土強靱化に関する施策に協力するよう努めなければならない
これに基づき、「学校における防災教育の充実を含め全ての世代が生涯にわたり国土強靱化に関する教育、訓練、啓発を受けることにより、リスクに強靱な経済社会を築き、被害を減少させる」ことが「政策大綱」には明示されています。
5月には、【国土強靭化基本計画】(第10条)が策定される予定です。この計画案は、内閣に置かれる【国土強靭化推進本部】(第15条)が、国土強靭化を図る上で必要な事項を明らかにするため、大規模自然災害等に対する脆弱性の評価の指針を定め、脆弱性評価を行い、その結果に基づき、作成する(【基本計画の案の作成】第17条)、とされましたが、その際には、関係行政機関や学識経験者、国土強靭化推進に密接な関係者の意見を聞かなければならない、としています。尊重されるのは「政治家」「官僚」「有識者」「密接な関係者」の意見であり、国民は上記のとおり、協力するだけ、です。
地方の事業は、国の推進本部が策定する基本計画との調和が求められており、地域住民のニーズに沿った事業が実施できない可能性も出てきます。被災地で、住民の意思に反して行われようとしている巨大防潮堤事業、そして、地域住民はその是非が問えない国の直轄事業・スーパー堤防事業などに、改めてお墨付きを与えることにもなりかねません。
「政策大綱」では、「交通・物流」分野における必要な取り組みとして、「リニア中央新幹線」が具体の事業として盛り込まれました。大量の残土、騒音、振動、電磁波、水枯れなど、多くの問題点が指摘され、災害時においても避難誘導の困難さなど、防災・減災の妨げになるとの指摘もあります。生活者ネットもこの事業は推進すべきではないとの立場です。
「国土保全」分野では、具体の事業名はないものの、「地震・津波、洪水・高潮、火山・土砂災害等の自然災害に対する施設整備等」が明記され、「計画規模を上回る、あるいは整備途上で発生する災害に対しても被害を最小化する」とされました。「地域コミュニティとの連携、自然との共生及び環境との調和等に配慮する」とはしたものの、その実効性の担保はなく、旧来型公共事業の拡大を決定づけた観があります。
特定秘密保護法の強行採決や原発再稼働、憲法改正への動きは、時代に逆行するものであり、次世代に手渡すべき明るい未来に影を落とすものと懸念されますが、本法成立もまたその流れを加速させるものと考えられます。どれも市民の望みとはかけ離れており、今後も市民の監視が必要です。