住民意見の反映なき「特定整備路線」
東京都は東日本大震災を踏まえ、2012年1月、「木密地域不燃化10年プロジェクト」を立ち上げました。木造密集地域の中で、震災時、甚大な被害が想定される約7千haの地域を対象に、延焼遮断帯の形成のための「特定整備路線」の整備や市街地不燃化促進のための「不燃化特区」などの取り組みを重点的・集中的に実施し、2020年までに「燃え広がらない・燃えないまち」の実現をめざすものです。 (その後選定された特区)
「特定整備路線」は28区間、約26kmにわたりますが、江戸川区内では12年6月に「補助144号線」(平井2丁目付近500m)が、同10月に「補助142号線(530m)」「補助143号線(640m)」(いずれも南小岩7丁目・8丁目周辺)が選定されました。このうち「143号線」と「144号線」については、戦後復興計画を基本になされた、昭和20年代の都市計画決定以来、長期にわたり未整備で、都が現在実施している「第三次事業化計画」の優先整備路線にも入っていなかったものです。それが昨年10月、7年後の完成をめざす整備区間として地元説明会がなされ、その席上、都から「強制収用もできる」と強権力を振りかざす発言もあったことから、地域では困惑の声が上がりました。
半世紀以上前の都市計画決定の際とは、交通事情も住宅事情も変わっており、特に平井の「144号線」については、すでに幹線道路を結ぶ補助路線として「補助120号線」(平井~鎌ヶ淵)もできています。また、「144号線」の終点は江東区の夢の島ですが、今回整備する範囲の延長にある旧中川に橋を架ける計画も江東区側の道路整備も予定されていません。
都市計画道路の整備プロセスは、「都市計画決定→現況測量→用地測量→事業認可→用地取得→工事→完成」となり、「事業認可」から後の工程が「事業化」ということになります。この事業化を行うに際し、昨今は、パブリックコメントにより住民の意見を聴取するプロセスが一般的になっており、都では2004年に現行の「第三次事業化計画」を策定する際にも実施してきました。
しかし、このたびの「特定整備路線」については、都の「選定」の前に、このプロセスはありませんでした。「緊急を要する」というのが、その理由だそうですが、緊急であるならば、なぜここまで「長期未整備都市計画道路」のまま放置されてきたのでしょうか?
「防災」の冠が付けば、何でももっともらしく聞こえがちですが、地域住民の意見も聞かずにすすめるやり方は、震災やオリンピックに便乗した事業ととらえることもできてしまいます。やはり長期未整備だった品川区・大田区の「補助29号線」は3.5kmにも及ぶ区間。事業化もこれからですから、6年後までに完成するとは考えられません。
「 補助144号線」では、沿線の60軒ほどが立ち退きを迫られることになりますが、都は、当該住民のため現地相談窓口の設置や、移転資金の融資金利を通常の1.2%から0.228%に設定するなど、事業推進に向かい、特別支援策を講じています。しかし、個別交渉の前に、その道路の必要性について、地域のまちづくりの観点からも住民参加で議論することが必要です。
28区間のうち、事業化されているのはまだ9区間に過ぎません。今からでもパブリックコメントを実施し、住民との合意をしっかりと図るべきです。