原判決での「盛り土」の事実誤認が明らかに~「江戸川区スーパー堤防取消訴訟」控訴審第一回期日

 

「この区画整理はスーパー堤防事業があったから始まった。そこから目をそむけて判決を書くのはおかしい」と福田弁護士。裁判後、参議院会館での報告集会にて。

 「江戸川区スーパー堤防取消訴訟」は、原告が訴えた「スーパー堤防事業」の不要性を争点としないまま、昨年12月、不当判決が言い渡されました。判断すべきは「土地区画整理事業」であり、「スーパー堤防事業」は別の法体系である、というのがその理由でした。 

  17日行われた控訴審(奥田隆文裁判長)第一回期日では、控訴人側は、スーパー堤防整備と切り離して、土地区画整理事業の都市計画決定及び事業計画決定の違法性の有無を判断する点に根本的な誤りがあり、「盛り土」を必要とした都市計画・事業計画の違法に関し、重大な事実誤認及び法解釈上の誤りがあることから、原判決は取り消されるべきとして、改めて主張がなされました。 

 なぜ、「盛り土」を争点にすべきなのか。福田健治弁護士は、「住み慣れた自宅を必ず取り壊して再築をしなければならないこと、本来1度で済むはずの移転を2度も行うこと、仮の生活が3年以上に及ぶこと、地域コミュニティの破壊といった弊害は、すべて『盛り土』によってもたらされるものである。事業後における、危険を伴う移転、騒音の増大、負担がかかる傾斜地での生活についても、通常の平面の区画整理であれば生じず、これらはすべて『盛り土』のために生じるのである以上、厳格な審査が必要である」と、まず主張されました。

  原判決は、「土地区画整理事業」における「盛り土」整備の必要性について、江戸川区の主張どおり、2点示しています。104頁という膨大な判決文の中のわずか16行のみの記述です。

①地区北側、国道14号線との間に高低差があることから、2.5m 3.5mの階段が設けられ、これにより、東側及び東外側を南北方向に伸びる道路が行き止まりになっている②地区東側、江戸川右岸堤防は本件地区より6.5m高い。

 これら高低差は、盛り土により解消でき、地区への進入経路が改善され、緊急時の消防車両進入や避難経路確保の点から便益を得られる。

  福田弁護士は、パワーポイントを使って、この判断の事実誤認を指摘。

①について、「階段」の存在と「行き止まり」を示し、これを解消するとしながら、事業計画では、この部分には道路は設置されない ②については、現状においても、市川側から堤防を通って地区に進入する経路はある。長さも100m足らずである。よって、いずれにおいても、「盛り土」を必要とする理由にはあたらない。 

 その上で、「盛り土」により得られる公共の利益と、失われる利益を比較衡量する重要性が、昭和48年の「日光太郎杉」高裁判決を例に説かれ、それがなされていない原判決は取り消されるべきである、との主張がなされました。 

 控訴人・宮坂健治さんも陳述を行いました。「終の棲家として建て、亡き両親との思い出も詰まった自宅を必ず取り壊し、移転することがどれほどの苦痛か思い知らされている。原判決では、2度の移転がいやなら買収に応じればいい、ということだったが、そのようなことは考えられず、生活基盤を一からつくり直すことは、換地であれ、買収であれ、決して住民の負担が軽減されるものではない。まちを良くする事業のはずが、そうではない。家族は体調を崩し、深刻な状況にある。住民の生命・身体に悪影響を与えることが、なぜ堂々と行えるのか。被害はこれからも生じるだろう。こうした現実を受け止めていただき、適切な判決を下されるよう望む」と訴えられました。

 一方、被控訴人からは「主張、立証は尽くしている」と、ひとこと発言がありました。

 控訴人側からは、6月末までに、行政法、社会学、盛り土の危険性、防災工学などに関する意見書提出の意向であることが確認され、次回期日は、7月17日(木)午後4時、101号大法廷で開かれることになりました。