市民と専門家の対話~水政策のキーパーソン・沖大幹さんと
国土交通省は地球温暖化による渇水の深刻化を前提に、今後の水資源政策を検討するための第三者機関として「国土審議会・水資源開発分科会・調査企画部会」と「水資源分野における気候変動への適応策のあり方検討会」を立ち上げています。
7月26日(土)、「八ツ場ダムをストップさせる市民連絡会」「八ツ場あしたの会」「水源開発問題全国連絡会」「利根川流域市民委員会」が共催した「水危機~ほんとうの話」では、上記の会でいずれも座長を務められる沖大幹東大教授が講演されました。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)執筆責任者として、2008年12月に江戸川区で開催された「第1回世界海抜ゼロメートル都市サミット」でも基調講演を務められています。 (そのときの報告はこちらから)
「今日お越しのみなさんとは意見が違うこともあると思う」と前置きされてのご講演。第二部の嶋津暉之さん(水源開発問題全国連絡会共同代表)との対談「これからの水行政と河川行政について」では、まさにそこが鮮明になった部分もありましたが、そうした中でもひとつひとつ丁寧に説明されていました。そこで沖教授から語られた「スーパー堤防事業」に関するご発言をご紹介します。
「計画を超える洪水はありうる。400年かけてもつくったらいい」。一方で、「土の堤防は沈下したり劣化するが、土堤原則をとるのは、壊れたとき、土砂であれば影響が少ないから」。そして「首長の判断が、テクノクラートにだまされていたらチェックが必要」。さらに、「反対する人が耐えられないという気持ちはわかる。しかし、公共性が上回る」
*テクノクラート・・高度な科学技術の専門知識と政策能力を持ち、国の政策決定に関与できる上級職の技術官僚
ご講演の後、用意された質問用紙に参加者が記入する形で質問を受けられ、それに答えられたものです。この件について質問したのは私。当日資料に、「施設による対応のレベルを超える大きな洪水に対して、浸水を許容する土地利用や地域づくりで対応―被害を最小化する土地利用や住まい方への転換」(P13)があり、そこには「連続堤による河川整備」「災害危険区域の指定」「輪中堤などにより、守るべき区域を限定した河川整備」が列記されていましたが、「スーパー堤防」については明記されていなかったため、「住民側に過度な負担が課せられるスーパー堤防事業についてはどうお考えか?」と、負担の具体例を上げ、質問したのです。
「スーパー堤防は、その壊れる『土の堤防』の上に住民が家を建てて住むことになりますが、東日本大震災では、利根川の2か所で沈下や液状化が起きています。おっしゃるとおり、堤防は改修がつきものですが、それはできない構造です。これをどう説明されますか?」「構想として理解できても、そこには住民の生活があり、基本的権利に伴う難題があります。」「まちづくり事業と一体的に進められますが、地域の説明会や意見書提出では、国のスーパー堤防に関する意見は取り上げられません。改正河川法の『住民意見の反映』はなされているでしょうか?」
閉会後、お話させていただきましたが、現場で起きていることや会計検査院の指摘などはご存じないとのこと。上記について、土木工学者の方々がおよそ意識されないであろう生活者の視点からの課題をまとめた私のつたない資料をお読みくださるとのことでした。
国の審議会に入られている沖教授をはじめとする学者のみなさんは、そのテクノクラートに影響を与える立場でもあります。政策決定にあたっては、専門家の意見と同時に、その制度に直接影響を受ける住民の意見が同様に尊重されなければなりません。決定に関わる方々には、ぜひ現場を見、当該自治体を通してではなく、直接住民の意見を傾聴する場を持ち、専門調査機関の指摘なども踏まえた上で総合的な判断をしていただきたいと思います。課題は設計図面では見えません。生活の現場にこそあるのです。
なお、嶋津暉之さんが問題提起のためにつくられた当日資料はこちらからご覧ください。