権利の濫用に係る拒否規定は必要か②~問われる制度運用

情報公開制度は、国の制度化に先んじて、1982年、山形県金山町に情報公開条例が、都道府県では83年、神奈川県に条例が制定されました。「行政機関の保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)」が制定されたのは1999年(平成11)で、独立行政法人について法制化されたのは2001年でした。

総務省の調査では、2014年(平成26)10月時点、条例を制定しているのは、都道府県47団体(100%)、政令指定都市20団体(100%)、市区町村1721団体のうち1719団体(99.9%、未制定団体は2)、一部事務組合1601団体のうち760団体(47.5%)、広域連合114団体のうち101団体(88.6%)となっています。

行政は、主権者である国民・住民に対し幅広く情報を提供して行政運営の内容を説明する責任を負っています。政府の行為を公開し、国民が監視できるようにしておくことは、国民主権や民主主義の原理に基づく基本的要請です。今日、行政機関による個人情報等の収集は増加する一方で、東京都の豊洲移転問題に象徴されるとおり、あるべき公文書が不存在であるといった行政の不作為、不祥事は依然なくならず、市民から情報公開を強く求められる要因にもなっています。

地方自治体において、住民の知る権利は、地方自治の本旨である住民自治の観点が尊重されなければならず、だからこそ地方からこの制度が普及していったのでしょう。地方自治は住民の意思と責任に基づいて処理されるべき。そのために、地方自治制度には直接請求、住民監査請求、住民訴訟などといった、間接民主制を補完する直接参政のしくみが設けられています。

この住民自治をしっかりと機能させるためには、住民が行政運営に関する情報を幅広く把握することが必要です。地域の問題を自ら解決するためには、そこに知る権利が保障されていなければならないのです。

今回の条例改正につき、江戸川区は、特定の個人が開示を求めた文書だけで総数の7割になり、大量の文書要求に職員が疲弊していることを改正の理由に挙げましたが、江戸川区では、過去に同じ請求者が「年度末に、廃棄される文書すべて」を請求した時は請求を拒否したといいます。

前回ご紹介した、濫用禁止規定や請求拒否規定を持つ、都内2市4区の運用状況は、西東京市が一人に対して適用した以外、他に適用例はありません。「濫用として却下することは住民の権利を制限することになり、判断は重い」ことから、渋谷区では条例改正後も1件で2万枚に及ぶ請求にも応じたとのことです。

江戸川区の今回の顛末は、これまで制度の運用が、決して適切ではなかったがゆえに引き起こした自らの置かれた窮地の解消、さらには訴訟になった際の保身だけが優先されたきらいはぬぐえないと感じます。愉快犯的な請求を行う特定者のために、全体の知る権利に影響を及ぼす条例で制限をかけることは適切と言えるでしょうか。市民には単なる威嚇に過ぎず、実効性がどれほどのものか、先行した自治体の状況に照らしても疑問は消えることはありません。

区民不在のまま、拙速に提出された条例改正案は、きわめて重要な内容であるにもかかわらず、区議会総務委員会でわずか1回、30分程度の審査で終結しました。

「情報公開制度の後退、全国最悪の改正」として撤回を求めた共産と、「現在でも濫用への対応は可能であり、条文追加の意味が不明確。審議不十分であり継続審査を求める」とした江戸川クラブの2会派が反対。公明は背景の質問だけで意見を述べず、自民は「常軌を逸する権利の濫用は明らかであり、規制やむなし」、江戸川自民は「被覆処理の実費負担は相応」として賛成し、民進は質問への満足な回答があったわけでないのにやはり賛成しました。継続審査の提案については、委員長(公明)は、「本会議で付託され、各会派は審議を深め、真剣にこの場に挑んでいる」として退けました。こうした議会のあり方も大いに問題です。本会議では、31対12 で原案どおり可決となり、明日12月1日から施行されます。
<*反対は、生活者ネットワーク(2名)・共産党(5名)・江戸川クラブ(4名)・民進党(5名のうち無所属1名)。反対討論は生活者ネット・本西光枝議員と江戸川クラブ・笹本尚議員。> 

市民オンブズマンの調査、また今回の区当局の答弁からも「請求権の濫用は請求を却下できる」旨の条例改正とその適用が急速に増えているという傾向にはありません。市民の知る権利を保障するための条例が、自治体側が市民を規制するために改悪されないよう本制度を監視していくことは言うまでもなく、万が一、このような動きがある場合には、行政と専門家だけではなく、主権者である市民が直接参加して、十分な議論の上、結論を導き出すプロセスが何よりも重要であると思います。