今問われる「高規格堤防整備の現状と課題」~国会図書館調査論文より①

国立国会図書館が4月20日付「月刊レファレンス」で、国政の中長期的課題に関する調査論文として「高規格堤防整備の現状と課題」を公表しています。

高規格堤防事業について「進捗のための検討状況、河川整備事業の実施者として主体的に検討すべき課題等について検討するため」、「同図書館の調査及び立法考査局内において、国政審議に係る有用性、記述の中立性、客観性及び正確性、論旨の明晰性等の観点から審査を経たもの」とのことです。

つまりは、事業継続を前提とした論文、ということになるのでしょうが、国会図書館が今このテーマに取り組み、本事業の現状及び数々の課題が広く国民の知るところとなることには意義があると考えます。全国に点在する「ダム」と異なり、「高規格堤防」は首都圏と大阪圏の一級河川の下流部のみを対象とするスペシャルな事業であることから、昨今では、その功罪について国民的注目は集まりにくい状況です。著者は国会図書館調査及び立法考査局国土交通調査室主任の山下修弘さん。制度創設の目的から、大規模災害時代となり、防災に対する考え方や堤防整備の考え方の変化などがわかりやすく述べられています。

かねてより住民運動の中で指摘してきたことには「越流水深」の問題もあります。技術的なことは一般市民にはなかなか難しいものですが、P32で取り上げられています。

・高規格堤防に関し、越流水のせん断力(斜面をずらす力)の算定式は「計画堤防天端高を基準とする高規格堤防設計水位と堤防の川裏側の勾配の2つの変数による式で表している」。結果、「高規格堤防設計水位は15.7㎝」。しかし「この計算式には、越流水が流れている時間係数は入っていない

一方、

・「大河川における越水事例調査により、越水したが破堤しなかった堤防について、全体の75%が越流水深60㎝、越流時間3時間に相当する総越流水量以下である」。これは「越流水の総流量という、越水している時間の概念が入った安全性の研究結果である」。

通常60cmに対して、高規格堤防はわずか15㎝。カスリーン台風では50cm、5年前の鬼怒川決壊では20cm、昨年の台風19号では千曲川が50~80cm、久慈川、那珂川などで40cmとなっています。これをどう考えればいいのでしょうか。そもそも越水時間がどれほどかは重要な要素だと思われますが、高規格堤防にはその概念は不要、としていることになります。本当にそれでいいのでしょうか?

この項では、江戸川区当局への個別の指摘も(P33) 。

東京都の補助スーパー堤防について、「越流水の洗堀にどの程度耐えられるものか明瞭な資料は見当たらない」としたうえで、「江戸川区の整備方針パンフレットを見ると、(中略)スーパー堤防の効果として、両者を区別することなく越流水にも耐えられると紹介している部分もある」。