スーパー堤防事業の虚構と進めるべき治水行政~江戸川区スーパー堤防裁判報告集会②

​​​​​スーパー堤防裁判報告集会では、意見書提出や証人尋問で本裁判に関わられた嶋津暉之さん(水源開発問題全国連絡会共同代表・元東京都環境科学研究所研究員)の講演も行われました。テーマは「スーパー堤防(高規格堤防)事業の虚構と進めるべき治水行政」。

嶋津さんは、本事業が遅々として進まない状況を報告され、その理由を大きく2つ挙げられました。

ひとつは、巨額の費用がかかること。本件、北小岩1丁目東部地区では、整備単価1mあたり約5千万円であり、この数字をあてはめれば、江戸川下流部の未整備区間約20kmの整備だけで1兆円かかることになります。

そして、今ひとつは、人々が住んでいる場所に堤防をつくるという手法そのものの問題。大勢の住民を5年もの間、立ち退かせなければ造成できないとなれば進むはずがありません。現住居を終の棲家として余生を送るはずの人たちを、江戸川区は強制的に追い立て、住居の強制取り壊し(直接施行)を行うという極めて深刻な事態を作り出してしまいました。

さらに、2015年9月の関東・東北豪雨、18年7月の西日本豪雨、19年10月の台風19号豪雨、20年7月の熊本豪雨など、この6年間に起きた特大級の水害を挙げ、被害を深刻化させたのは従来の河川行政、治水行政に根本的な欠陥があったからだと指摘。

15年の鬼怒川水害では、下流においては4つのダムの治水効果が減衰していたこと、18年の西日本豪雨では、2つのダムの緊急放流で肱川が大きく氾濫したことをデータに基づき説明されました。

スーパー堤防事業もまた、こうした悪しきダム事業に代わる一大事業として存在しているとも。

そして、今後進めるべき治水行政として4点を挙げられました。

  • 有効性に乏しく、時に水害を激化させるダム建設を中止し、予算を河道整備に注ぐ
  • 耐越水堤防工法は、ダム建設の妨げになると封印してきた経緯があるが、堤防決壊を防ぐため、推進する(2019年に甚大な被害のあった千曲川では導入されている)
  • 河床掘削による流下能力の増強

2020年度から河川ダムの土砂浚渫費を総務省が支援する「緊急浚渫推進事業費」が創設されたが、これは都道府県管理河川が対象。国交省こそが国の直轄河川において実施すべき。

  • 流域治水の推進

氾濫被害の要因のひとつは、氾濫の危険性が高い地域での宅地造成、住宅建設がコントロールされてこなかったことにある。本年2月2日に閣議決定された流域治水関連法案については、厳しい法制度の整備と十分な財源措置を講じ、実効性あるものとして推進する。

当日配付資料及びスライドをあわせてご覧ください。