河川管理に瑕疵あり~鬼怒川大水害訴訟で国に賠償命令

7月22日(金)午後2時。水戸地方裁判所でなされた鬼怒川大水害訴訟の判決言い渡しを傍聴しました。傍聴を希望した85名のうち傍聴できたのは38名という狭き門。実は私も抽選にはずれたのですが、譲ってくださる方がいらっしゃり、法廷に入ることができました。

原告席には10人の代理人が勢ぞろい。被告席には4名の代理人。傍聴席1列目に3席、被告特別席が設けられ、国交省職員とみられる方々が着席。同様に傍聴席には原告特別席が20席ほど、記者席15席ほどが設けられていました。

21世帯、32名の原告が賠償総額358,705,819円を国に求めていた訴訟。

満場となった301法廷で、阿部雅彦裁判長が読み上げた主文冒頭は、これまで聞きなれない「被告は~」というもの。若宮戸地区の9名の方々の名前と賠償額が次々に読み上げられ、その総額は3,9279,897円、個々の賠償額は77万~1638万に及びました。水害被害において、国にこうした賠償命令が出るのは極めて異例ですが、原告の主張、河川管理の現状に照らせば至極まっとうな判断です。この間、明らかになった内容はこちらから。

原告団共同代表の片倉さんは「国の河川管理の瑕疵を認めた判決。歴史的なこと。国は真摯に受け止め、危険なところから整備してほしい」。弁護団の只野代理人は「当初から人災と言われていた。一部でも認められたことは優れた判断。原告が全員で力を合わせた結果だ。水害訴訟が各地で起きている中、全国に勇気を与える判決ではないか」と話されました。

若宮戸地区については、堤防の役割を果たしていた砂丘林を国が河川区域に指定せず、実質無堤防状態だったことで、国の瑕疵が認められました。一方、周辺よりも堤防が低く、幅も狭く、整備の優先度が高かった上三坂地区の堤防強化が遅れていたことについては、同地区より下流で安全度が低い堤防もあり、著しく不合理とは言えない、と原告の主張は退けられました。

上三坂地区についての判断に関し、弁護団・大木代理人は「高さだけでなく幅を考慮するスライドダウン堤防高の考えにより、不合理ではないとなってしまう」と。さらに「利根川水系で過去に破堤した32ヶ所のうち28ヶ所が越水によるもの。漏水によるものは4ヶ所で、それも樋管の取り付け方が不十分といった理由がほとんど。なのに、漏水も考慮しなければならないとなり、重要な越水対策と逆になってしまう」と指摘されました。「判決は今日の天気と同じで、晴れとも言えないし、どしゃ降りとも言えない」とも。

*「スライドダウン」はこちらから(P2)。

原告の高橋さんは「2ヶ所の水が合流して水海道に入ったのであり、どちらも認めてほしかった」と。弁護団からは「裁判長は上三坂地区についても理解は示していた。割合認定も可能ではなかったか」との考えも示されました。

ところで、「スーパー堤防裁判」判決は、主文の読み上げのみで、わずか数秒で終わりましたが、阿部裁判長は40分以上かけて判決に至った理由を説明されました。

そして最後に、コロナの影響もあった中、原告・被告、関係者の協力のおかげで今日の判決を迎えられた、と感謝の意を述べられていました。

「毎年同じような被害が出ている。改修計画が遅れているに過ぎない、として国が責任を問われてこなかったことを何とかしたいと原告は立ち上がった」と片倉さん。すでに25名の方が控訴の意思を表明されているとのことです。

*判決要旨はこちらから。

判決後、青少年会館で記者会見と報告集会が行われた。メディアの注目度も高い。