高裁も国の瑕疵認め賠償命令~鬼怒川大水害訴訟控訴審判決

2月26日(水)14時、東京高等裁判所101法廷にて、鬼怒川大水害訴訟控訴審判決が言い渡されました。原告席には20名ほど、被告席には6名。およそ50名が傍聴しました。

判決は、若宮戸地区では、堤防の役割を果たしていた砂丘が河川区域に指定されておらず、太陽光発電業者により掘削されてしまったことは、指定を怠った国の河川管理の瑕疵である、とし、一審に続き国の責任を認めました。

一方、上三坂地区については、原告側が河川管理の矛盾を指摘した「スライドダウン評価」も十分な合理性を有する、改修計画は格別不合理であるということはできない、と、やはり一審同様の判示となりました。

*判決文はこちらから。

水害裁判では、1984年の「大東水害訴訟」において、「改修中の河川については過渡的、段階的ないしは対応的安全性の存在をもって足りる」とした最高裁判決が河川管理の盾となり、国はこれに胡坐をかいてきたと言えます。しかし、若宮戸地区の状況は、上記のとおり、過渡的、段階的などということではないことから、大東水害の最高裁判決とは事案が異なる、としたものです。

原告団としては、上三坂地区についても国の責任を認めさせることが控訴の大きな理由であったと思います。しかし、そうはならなかったばかりか、一審で若宮戸地区の9名の方々に対して国に命じられた国家賠償額が30%、合計約1千万円減額されることにもなりました。

判決後、高裁前で原告団共同代表の片倉一美さんが「勝訴」の旗を掲げましたが、その表情に喜びの色はうかがえませんでした。

記者会見を終えた後の報告集会では、片倉さんをはじめ、3名の原告の方々からその胸の内が語られました。

「利根川水系において、この80年間で堤防決壊に至った32か所のうち28か所が越水によるもので98%を占める。一方、漏水は1件のみ。上三坂はあんなに低い。だから破堤した。小学生でもわかること。そして全国の被害状況も同じだ」

「被災すると死ぬ。財産もなくなる。家がなくなると避難所暮らしで亡くなるという二次被害にあう。どこかで水害が発生すると激甚化対策として湯水のごとく金を使う。低い危険な堤防から改修すればこんなことはなくなる。しかし司法は認めてくれなかった。日本に三権分立はない」

「二審も勝訴したが、良かったという喜びはない。瑕疵を認めたならお金で償うしかないのでは。反省も誠実さもなく、納得のいく判決ではない」

「高さは二の次で幅が大事、とした。2万人近い方が亡くなった東日本大震災後、住民は高い堤防を望んだ。幅と高さはセットだろうが、それにしても司法は国の味方だ」

「メディアには、水害を防ぐにはこれでいいのか、と国民に問いかける報道をしてほしい」

なお、国家賠償額が減額されたことについては、弁護団より、減額内容は家財の損害についてであり、その理由は、国税局の資料に基づいて主張したところ、当該資料は統計的なものに過ぎず、一律に個別の損害の根拠とはならないとの判断がなされた、とのこと。これについては、たとえば交通事故による休業をした場合の賃金は、統計データが一律に採用されている、との指摘もなされました。

国に再び突き付けられた河川管理の瑕疵。一方、勝訴を喜ぶことができない原告。

上告の場合は、控訴審判決から14日以内、3月12日までになされることになります。

「スライドダウン評価」による河川整備が続けば、水害被害はなくなるはずがありません。よって行政の決まり文句である「国民の生命と財産を守る」ことなどできないでしょう。

気候変動による水害が全国で多発する今日、これまでの河川管理のあり方を見直すプロセスは不可欠だと考えます。

*本訴訟についての詳しい内容はこちらから。

報告集会で判決の説明をする弁護団のみなさん(衆議院第一議員会館)