東京都にも社会的事業所制度を~東京ネット視察から①
今年8月初旬、東京・生活者ネットワークの「精神保健・労働」をテーマとした視察に、視察事務局として同行
しました。来年の都議会議員選挙政策の基本となる「2013東京政策」の策定には、東京ネットの政策委員として関わってきましたが、本テーマはその中でも重要政策として位置付けており、先進事例について視察したものです。労働では、特に障害者の就労について、滋賀県の「社会的事業所制度」を改めて学びました。
障害者は特別支援学校卒業後、ほとんどの人が福祉的就労という低工賃(月およそ1万円ほど)で働いています。障害者自立支援法のもとでは、こうした就労は「一般就労が困難な障害者に働く機会を提供するサービス」との考えのもと、利用者は事業者に1割のサービス利用料を支払うのが常であり、新たに成立した「障害者総合支援法」でも原則無料化は見送られました。働く場で利用料を取ること自体論外。障害者もサービスの受け手から、労働の担い手として、主体的に社会参加することが求められます。
こうした中、滋賀県では、障害のある人もない人も共に働く制度として「社会的事業所制度」がすでに確立しています。障害者も雇用契約を締結し、最低賃金の保障や社会保険に加入するなど、労働関係法規をきちんと適用する、言わば当たり前の働き方を保障するものです。大津には現在40の社会的事業所があり、市の社会的資源になっています。
まず訪問したのは大津駅近くの「掃除屋プリ」の事務所。こうした取り組みの中心的存在であり、現在「おおつ障害者就業・生活支援センター」のセンター長を勤めている白杉滋朗さんにお話を伺うことができました。白杉さんは、滋賀県の中でも最も歴史のある「ねっこ共働作業所」(印刷製本業:1975年創業)を始め、2005年に「印刷工房ルーツ」(印刷、印刷用データ作成)、そして2009年、「掃除屋プリ」を立ち上げています。
国の制度では、補助金は「職員(サービス事業者側)の給料」を保障するものであり、障害者に渡すことはできないとされています。そこで、障害者にも分配できる補助金制度の設立を求めてきました。2005年、全員と雇用関係を結ぶことを義務化した滋賀県社会的事業所制度を設立。その設置運営要綱において、補助金の使途を「給料」としたことで、誰にでも使える補助金になり、対等性が担保されました。「共に働く障害者は全従業員の半分まで可能」とし、健常者が生産性を上げて全体に分配していくというしくみです。
これにより、「掃除屋プリ」では、1年365日無休で、公衆トイレ清掃事業を市から受託、障害のある人もない人も月10万~15万円の給料を確保。次に訪れた「印刷工房ルーツ」は、法務局や県庁、裁判所等のある官庁街に事務所があることを活かし、名刺・はがき・機関紙などの印刷を請け負い、1人月給19万円。生活に必要な収入が各人に確保されています。
これまでの実践では、障害者以外にも、その他の就労困難者、たとえば、シングルマザーや差別部落出身者、在日外国人、引きこもりやニートの人たちが、健常者メンバーに多く存在することもわかってきています。社会的ハンディをもつ人を差別なく受け入れ、対等に働くこうした取り組みは、札幌市や箕面市、三重県でも始められています。
「2013東京政策」には、「『社会的事業所制度』を活用し、多様な働き方をすすめる」政策を打ち出しています。