有識者の「識」を問う~「利根川・江戸川河川整備計画原案」
スーパー堤防については、計画原案P55の表5―8に明示されました。江戸川区側は「江戸川右岸上流側・水元公園付近から、下流側・JR京葉線0.4km付近」とされています。いったい、いつまでに、いくらをかけて行うというのでしょう? それは示されていません。
以前からお伝えしている通り、その整備率を1.1%に過ぎないと発表した会計検査院は、「暫定完成や事業中も含めて整備率を出しているのは、スーパー堤防事業のみであり、そういう状況では破堤しない、との効果は発現しない」「まちづくり事業との共同事業により実施するとの事業スキームは機能していない」と指摘。
国交省と密接な関係にある調査機関でさえ、「今後まちづくりとの共同事業が行き詰ることは確実」「散発的な整備ではもともと期待されている効果は発揮できないため、このままの状態で事業を復活させることは非常に考えにくい」と報告しています。
しかしながら、国の「高規格堤防の見直しに関する検討会」は、見直した結果として、「下流域の1~2割で行う。たとえば、0m地帯や、浸水深の大きい市街地」としており、あくまでもまちづくりとの一体性を打ち出しました。会計検査院や専門機関の検証、そして地元では裁判まで起きるほどの実態を何も考慮していません。
原案に示されたエリアは、住宅密集地が連続しています。過去25年間で、住民のいない空き地や工場跡地で主に実施してさえ、整備率は1.1%。この先、密集市街地での施行が可能でしょうか? 本制度については、持続可能ではない、と判断するのが妥当でしょう。1~2割に縮小したこと自体、この事業の欠陥を認めたも同然。それを改めて「計画」に入れるなど愚の骨頂です。とても「有識」者の判断とは思えません。江戸川区と国でそれぞれ持たれている有識者会議には同じ方々が就いています。河川ムラ、ここにあり?
そこに住む人たちの生活権や財産権、コミュニティなど、大事なものを犠牲にして成り立つような公共事業は不要です。この計画は、仕事を継続するための、つくる側の計画に過ぎません。今の堤防を、限られた予算でいかに強化するか。そこには、守られるべき住民の立場での見直しこそが必要です。
耐越水堤防を行うなら、最小の費用で最大の効果があり、長い年月を要さないもの、そして住民に負担をかけないものを選択しなければなりません。本計画には川と距離しか書かれていませんが、そこには、何万人という住民の生活があるのです。江戸川河川事務所に対象エリアの人口を問い合わせましたが、返事はまだ。川だけを見て、肝心の住民のことは今もって気にしていないようです。「治水は河川の上にあらず。人身の上にある」(田中正造)。
住民に対し、移転補償や用地買収の交渉をするのは自治体の所管課。職員の方々もまたさらに過酷な責務を負うことになります。地域にこれほどの負担を押し付け、更地になったところを盛り土すればいい国、地域住民とはかけ離れたところにいて、国にお墨付きを与える有識者。彼らは地域の傷みによほど鈍感なようです。住民との対話を拒み続け、そろばん勘定でまちづくりを進める首長、も。
この原案に対するパブリックコメントは3月6日午後6時までと、4日間延長されました。その理由は、提出先のメールアドレスの表記が間違っていたから。拙速にすすめているバタバタぶりをここでも露呈した格好です。
22日(金)、公共事業改革市民会議から、14名の方々が江戸川区と市川市のスーパー堤防完成地区と予定地区の視察に訪れました。ジャーナリスト・まさのあつこさんのHPにそのレポートが掲載されています。こちらからどうぞ。