ダムやスーパー堤防に頼らない治水を考える~9.8緊急集会から
お伝えしているとおり、江戸川区北小岩では、スーパー堤防事業と一体の区画整理事業の直接施行が12月にも予定されています。疲弊しつつも闘い続ける反対住民を励ますため、改めて本事業の不要性を確認し合い、広く世論に訴えようと開いた緊急集会(主催:スーパー堤防問題を考える協議会・スーパー堤防取消訴訟を支援する会)は、定員を大きく超える135名もの参加者で埋まりました。
基調講演は新潟大学・大熊孝名誉教授が「ダムやスーパー堤防に頼らない治水はあるか? 越流してもすぐに壊れない堤防」をテーマに話されました。大熊先生は、利根川水系のご研究では第一人者。以前もお伝えしたとおり、国の利根川・江戸川有識者会議では、スーパー堤防や八ツ場ダム建設が盛り込まれた河川整備計画の前提となっているデータの矛盾を指摘され、御用学者と言われる方々が居並ぶ中で、最後まで、本当の意味での「有識者」としての役割と責任を果たされました。
まず、「確信を持ってものごとにあたる場合、きちんと腹の底にすえた、ものの考え方が必要」と言い置かれ、「川」とは「地球における物質循環の重要な担い手であるとともに、人間にとって身近な自然で、恵みと災害という矛盾の中、ゆっくりと時間をかけて、人の“からだ”と“こころ”をつくり、地域文化を育んできた存在である」と、定義されました。
現在の治水計画は「永遠に完成しない計画」とバッサリ。平成18年改訂の利根川治水計画によれば、八斗島地点においてのピーク流量は22000㎥で、上流ダム群で5500㎥/s分をカット、河道で16500㎥/を流すことに。利根川本川から江戸川への分派量は7000㎥で、分派率40%とされているが、カスリーン台風時でさえ24%であり、1万㎥クラスでの分派量は20%に過ぎない事実に基づき、江戸川に「この上、スーパー堤防をつくる必要はない」と。
会計検査院によると、2001年における整備が46.5kmで、現在が50km。「12年経ってもわずか4kmしか進んでいないことから見ても、絵に描いた餅であり、これで治水を行おうということ自体、おかしなこと」。また、「膨大な土量を必要とすることは自然破壊につながり、調達が難しいとともに、人家連担部では住民に、ダムの水没問題と同様の犠牲を強いる、時間と工費がかかり過ぎる」と指摘されました。「私が何も言うことはないほど問題は明らか」とも。
その上で、茨城県小貝川(1995年)での実証実験を皮切りに、新潟県大河津分水路(96年)、愛知県矢作川(2007年)などで実施され、2012年には、累計施工実績が250万㎡を達成している「連続地中壁工法(TRD工法)」、ソイルセメント系での強化により、土堤と馴染みがよく、浸透係数も小さく、洗掘にも強い「パワーブレンダー工法」、さらに「薬剤注入」による強化法、また、400年前から存在し、桂川などに見られる「水害防備林」による強化法など、効果的な代替案が示されました。
日本が開発した「連続地中壁工法」は、カリフォルニア州(2005年)やフロリダ州(08年)でも採用されており、TRD工法を用いた「地中控え護岸工法」は2009年度、国土交通省新技術活用システム検討会議による「準推奨技術」工法に選定もされています。TRD工法に関するこうした事実は、ジャーナリスト・まさのあつこさんが詳しく調べられたものです。
大熊先生は、コストにも触れられ、「連続地中壁工法」は、工費:1m×0.6m×深さ10mで約30万円、100kmの堤防改良で約300億円。「パワーブレンダー工法」は、工費:1m×1m×深さ10mで約6万円、100kmの堤防改良で約60億円であることを紹介。「国交省は安い工法は採用したくないようだ」とチクリ。
集会には、利根川・江戸川有識者会議で大熊先生とともに委員を務められた拓殖大学・関良基准教授も参加されました。「利根川・江戸川河川整備計画」の執行予算8600億円の中にスーパー堤防事業が入っていないことを問題視。1兆円もの超過は明白ながら、計画策定において予算の議論は必要ない、とする国交省、また、これを報道しないマスコミの姿勢に言及されました。
癒着は政官業のみにあらず。プラス、御用学者とマスメディアのペンタゴン・・。
大熊先生は「河川工学は100年の歴史がありながら、こんな計画しか立てられない。すべて白紙に戻して、根本的に考え直すべき」と結ばれました。
まちづくりと一体のスーパー堤防事業は対象6河川下流域120kmで存続となり、江戸川区内の沿川だけで今後2兆7千億円が投入されることに。ほぼ全額が国費。他の自治体住民のみなさんも納税者として、この財政出動の是非を、ご自分のこととして考えていただけたらと思います。
江戸川区議会建設委員会では、10日、「TRD工法で江戸川右岸の堤防強化を求める陳情」の意見開陳があり、傍聴しましたが、「新工法は一般的に認知されていない。スーパー堤防が最善であり、不採択」(自民)、「執行権のない江戸川区に求めているもので不採択」(公明)、「文面があいまいで不安がある。新工法は不明な点が多い。不採択」(民主・みんな・維新)といった意見が。採択は共産一会派のみで結果、不採択に。不安で不明なのは議員の調査力?