民主主義のプロセスまで壊すダム~利根川・江戸川有識者会議

 予告もなく打ち切りとなった利根川・江戸川有識者会議の最終回、第11回の席上では、有識者の意見も市民の公述やパブリックコメントも通過儀礼のような状況になっていることについて、「違法性があるのではないか」との意見が出されました。1997年の河川法改正で盛り込まれた「住民意見の反映」がなされていないためです。当時の尾田栄章河川局長は「言いっぱなし、聞きっぱなしでは全く意味がない。原案に対して意見が出された中で、必要なものについては修正をすることを考えているので、まさに関係住民の意向を反映していく」と国会答弁もしています。 

 委員より、今後のプロセスが確認されましたが、「原案に対しては、有識者や住民から意見を聴いたので、この先は都県の意見を聴く」というもの。つまり、おそらく原案のままであろう「利根川・江戸川河川整備計画案」について、あとは各知事の意見を聴くのみということ。有識者と住民は原案に対して意見を述べ、知事は、その先の計画案に対して意見を述べる。これでは、知事の意見が一段上の扱いです。河川法第16条の2「河川整備計画」では、3.有識者、4.住民、5.知事 は、それぞれ並列になっているのではありませんか?

  有識者会議の後に行われた記者会見の席上、八ツ場ダムをつくりたい一心で強行にすすめられている現状について、関良基委員(拓殖大准教授)より「ダムが民主主義のプロセスをも壊している」との発言が。 

 それにしても、日本を代表する有識者から出される疑問点がそのままスルーされては、一体何のための有識者会議なのか。「この会議は意見を出し合う場。まとめる場ではない」とは宮村忠座長(関東学院大学名誉教授)や国交省事務局の弁。結局、重要なポイントに誰もさわらず、うやむやにしたまま、実現不可能な計画が作られていくことになるのでしょう。 

 昭和22年のカスリーン台風での、基準地点八斗島における実績最大洪水流量が15000㎥/sであったことは当時の建設省資料(本年1月6日及び10日東京新聞掲載)からも、「治水調査会利根川小委員会議事録」からも明らか。ところが、今回、その再現ピーク流量は21100㎥/sとされ、この約6000㎥/sのかい離について、大熊孝委員(新潟大名誉教授)が再三説明を求めたにもかかわらず、結局明快な回答はありませんでした。大熊委員は、東大大学院時代の昭和40年代、当時の氾濫について、現地で徹底的に聞き取り調査を行い、それが1000㎥/sにも満たないほんの小さなものであったと判断。日本学術会議の結論は妥当ではない、と主張してきました。計画の基礎となる重要なデータであり、見解の相違で済ませる次元の話ではありません。 先の建設省資料に基づく大熊・関両委員の問題提起意見書はこちらから。

 しかし、その日本学術会議のメンバーでもある小池俊雄委員(東大大学院教授)は「かい離は検証できない。」 また、清水義彦委員(群馬大大学院教授)は「唯一の正解はない。どこに真値があるかは言えない。関東地整がどう判断するか。」 岡本雅美委員(元日大教授)も「利根川の重要性に鑑み、その重要度は達観的に決める。」 こうした発言に対し、傍聴者からは「まるで第三者みたいだ」「学者の良心どこにあるのか」といった声が。 

 大熊委員は、お墨付きを与えた側の小池委員に対し、最後に改めて疑問を投げかけました。「(基本高水)2万2千tは勇み足。歴史的責任を誰が負うのか。これを変えるチャンスがあなたにはあったのに残念だ。」