防災とコミュニティ~高校生の目で見た「スーパー堤防」
7月11日(月)、神奈川県藤沢市にある湘南学園の高校生が、江戸川沿川のスーパー堤防現地を訪れました。同校は、ユネスコスクールに加盟、今日的な課題の解決につながる新たな価値観や行動を生み出し、持続可能な社会を創造していく学習や活動を行っています。
「防災とコミニュティ」を総合学習のテーマとする高2生の視察受け入れについて、同校の校長先生から「スーパー堤防取消訴訟を支援する会」宛てに依頼があり、この日のフィールドワークとなりました。
元都立高校地学教諭で、地学団体研究会、日本地質学会、応用地質研究会等の会員でもある渡邉拓美さんが中心となり対応。男子6名、女子2名のチームが江戸川沿いの3ヶ所を見学しました。
まず、江戸川右岸の北小岩1丁目の現地を、対岸の市川市にある45階の展望施設から見下ろしました。ここは、150mの高さから現地とその周辺を一望することができる絶好のスポット。線としてつながるべき堤防が、点でしかない状況がひと目でわかります。
高校生たちは、ダムの湖底に沈むまちと同様の犠牲を住民に強いる事業であることについて、特に感じ入った様子でした。
その後、高層マンションの土台のように築堤されている市川市のスーパー堤防、そして今春、スーパー堤防の盛り土が完了、現在、江戸川区が区画整理事業を行う北小岩の現地を見学。最後は、江戸川区役所で区の説明を受ける班と、スーパー堤防化が予定される上篠崎地区へ向かう班に分かれ、上篠崎を訪れた班は、この事業により、480基のお墓もろともわずか数十メートル移転させられようとしている、700年の歴史を刻む妙勝寺にて、地元住民とも交流、意見交換を行いました。
「できるところから着手する。通常堤防の安全度に加え、より安全なスーパー堤防が一部でもできれば、総じて安全度は高まる」。これが国と江戸川区の言い分ですが、果たしてそうでしょうか。
利根川・江戸川は人口・資産の集中する首都圏を流れるため、全国の河川よりも高水準の安全を確保するとして、30年間の河川整備計画では、70~80年の確率で起きる洪水に対応できる整備をするとされています。この達成率は昨年6月現在、利根川48%、江戸川36%。江戸川下流域は両岸合わせて22kmを、200年確率の計画をも越える超過洪水に耐えるとされるスーパー堤防にする計画ですが、この北小岩1丁目の延長120mと、10年後の完成が目指されている延長420mの上篠崎地区以外、具体の予定はありません。江戸川について、今後7割もの未達成区域を整備していく上では、莫大な費用と時間をかけて一部分だけをスーパー堤防にするのか、速やかに残り7割全体に計画通り高水準の整備をして首都圏の治水安全度を確保するのか、どちらがより流域住民の生活を守りうるかを改めて検討することが必要です。もちろん、こうした蔭で、一級河川の鬼怒川では、10年確率の治水安全度を確保する計画すら「整備途中」であり、結果、昨年の決壊を引き起こした事実も忘れてはなりません。こちらから。
スーパー堤防を「防災とコミュニティ」の視点で考察した結果、どのようなジャッジがなされたのでしょうか?
高校生からは「コマコマな(発言のまま。細切れの意)堤防では意味をなしていない」「現場を見て、国のやり方を考えさせられた」などの意見が。さらに、スーパー堤防事業に同意していなくても強制的に立ち退かされること、完成した現地に戻らない人たちがいること、賛成・反対の住民対立を生むことなどについて、コミュニティ形成の観点から疑問の声が出されました。
区内や都内の中学や高校でも、ぜひこうした取り組みを行ってほしいものです。