暫定水利権のほとんどを占めるのは、埼玉県や群馬県などの、冬場における農業用水転用水利権による取水です。この農業用水を転用した水利権は、冬場は権利がないとされるため、八ツ場ダム事業への参加で冬の水利権を得ることが求められているのです。しかし実際のところ、この水利権は夏冬とも長年にわたる取水実績があり、古いものは37年間も取水し続けていますが、その間、冬場の取水に支障をきたしたことはありません。先ほどの趣旨説明では「首都圏において、八ツ場ダムの完成による新規開発水量の約5割を取水し、首都圏の水需要に対応している」とのことでしたが、八ツ場ダムがなくてもそれほどの水量を取水し続けられていること自体、ダムの必要性を問うべき事実と言えるのではないでしょうか。過去の例によると、ダム完成を前提としたこの水利権が、ダム中止後に消失することはなく、そのまま使用が認められています。このような状況にある以上、国は、暫定水利権ではなく、安定水利権として認めるべきですが、水利権許可権者もダム建設事業者も同じ国土交通省であることから、国交省は水利権許可権をダム事業推進の手段に使ってきたとも言えます。
また「ダム中止は度重なる渇水を招く」との危惧が示されましたが、八ツ場ダムの夏期における利水容量は2500万立米しかなく、完成したとしても利根川水系の夏期利水容量は5%増加するだけであり、そもそも渇水対策に直結する性格のダムではありません。
ダム建設予定地は、地盤が脆弱であり、ダム湖による地すべり発生の危険性が極めて高いことが指摘されています。また、ダム湖を観光資源に、という構想もあるようですが、夏場は洪水調節のため28mも水位が下がり、その上、上流の肥沃な土地から多量の栄養物が流入してくるため、浮遊性も類の繁殖により水質悪化は避けられないと予想されています。それこそ観光資源である美しい吾妻渓谷も上流部は破壊されるか、ダム湖に沈むことになります。こうした観点からも、このまま事業をすすめても、住民の安定した生活が保障されるとは限りません。
最後に改めて申し上げます。八ツ場ダムの目的は治水と利水のふたつ、つまり、下流の洪水調節と下流への水の供給です。これまで述べてきましたとおり、治水・利水両面において、もはやダムを建設する理由がないのは明白であり、私たち下流域の住民はこの事実をしっかりと受け止め、的確な判断をすることが求められています。
八ツ場ダム建設の中止は、地元の問題、費用の問題にとどまらず、将来にわたり、国土と住民の心を荒廃させない公共事業に転換するという大きな役割をも担っています。今ここで、このダムの恩恵を受けるとされてきた地域からも、八ツ場ダム建設中止の判断をしていくことこそが必要であると考えるものです。
江戸川区議会 議員各位には、なにとぞ趣旨をご理解いただき、多くのご賛同をいただきますようお願い申し上げまして、私の反対討論を終ります。
*賛同議員は、共産・民主・無所属・一人会派 計13名。
自民・公明計29名の多数により「即時撤回を求める意見書」が提出されることに。