治水は、今を生きる人のために最小の経費で最大の効果を短期間で

利根川水系流域市民委員会再結成集会報告②

 集会のパネリストは、現場を知り尽くし、現実のデータに則り、実現可能で効果的な提案を続ける専門家たち。

 水源開発問題全国連絡会共同代表・八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会代表の嶋津暉之さんは「耐越水堤防は必要だが、最小の費用で最大の効果があり、長い年月を要さないものが選択されなければならない。たとえば、ソイルセメント連続地中壁を堤防中心部に設置するハイブリッド堤防。莫大な費用と長い歳月がかかるため、点の整備しかできないスーパー堤防は論外」とバッサリ。

 連続地中壁工法を従前から提案されている新潟大学名誉教授・大熊孝さんは「治水事業は今生きている住民の命を守るためになされているか。現状の整備計画は、仕事を継続するための、つくる側の計画。今の堤防をいかに強化するか、限られた予算で何をするか、守られるべき住民の立場で見直すことが必要」と。

 「荒川掘削という先人たちの偉業の前に安全な今がある。私たちも子々孫々のために『スーパー堤防』事業をやり抜く」とは江戸川区当局の常套句。しかし、それが点では子々孫々のためにいかほどの効果があるのか? 子々孫々に行きつく前に、今の人の安全すら守れないのでは? 安全どころか、日常の生活権やコミュニティまでも奪い、暮らしにくいまちにしてしまっているのでは?

 筑波大学准教授・吉田正人さんが、最後の挨拶の中で紹介されたことも印象的。
「真の文明は山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし」とし、地域の自治の必要性を訴え、渡良瀬川鉱毒事件と闘った田中正造の次の言葉。
「治水は河川の上にあらず。治水は人身の上にある」

 さて、八ツ場ダム建設中止は撤回された? 
 撤回され、本体工事費が24年度予算に計上されましたが、その建設については、①作業中の利根川水系に関わる「河川整備計画」を早急に策定し、基準点・八斗島における「河川整備計画相当目標量」を検証する ②ダム建設予定だった地域に対する生活再建の法律を、川辺川ダム建設予定地を一つのモデルとしてとりまとめ、次期通常国会への提出を目指す ③八ツ場ダム本体工事は、以上2点を踏まえ、判断する。以上の官房長官裁定が出ています。

 ①と②がクリアされない限り、本体工事費は執行されず、4月6日決定の本年度当初予算から本体工事費18億円は除かれています。②については、国交省が大急ぎでつくり、国会に提出されていますが、これまで頓挫していた①については、今後も容易ではなく、スケジュールさえ明らかにされていません。