国による盛り土は行政権の濫用か~江戸川区スーパー堤防仮換地処分取消訴訟第4回口頭弁論期日報告①
17日(水)午後1時30分開廷の「江戸川区スーパー堤防事業仮換地処分取消訴訟」の第4回口頭弁論では、原告の主張に対し、被告・江戸川区が提出した反論書面を受け、原告代理人・福田健治弁護士から、それに対抗する明快な弁論が展開されました。
原告が主張していた点は次の2点。
①スーパー堤防事業は住民の同意が必要であり、同意を得て初めて整備可能となる。同意が得られていない以上、スーパー堤防事業を施行することはできない
②区画整理の仮換地指定は、一方的に土地の使用収益を停止することであり、強度の強制力を持つ。江戸川区は、本件区画整理事業において、その目的にスーパー堤防事業を挙げていない。しかし、これは表面的・形式的であり、スーパー堤防事業のために区画整理が実施されてきたことは万人が知る。区も、本件区画整理がスーパー堤防事業との共同事業を目指してきているとの説明を覆したことは一切なく、スーパー堤防事業は実質的目的である。区画整理上のしくみを、スーパー堤防事業のために使うのは違法である。
被告・江戸川区は、書面により、「同意を得なければできないという禁止規定はない」と、わずか数行の記述で反論してきたといいます。
これに対し、原告団からは、国民の権利利益を制限するには、これを正当化する法律上の規定が必要でありながら、禁止されていなければ行政が何をしてもいいとは、全く筋をわきまえない理論であるとの主張が展開されました。スーパー堤防事業のために、別の法律で住民を立ち退かせていいのか。区画整理のためのしくみを、スーパー堤防事業のために使っていいのか。盛り土工事を行うことができるのは、法に基く事業計画では江戸川区であるのに、なぜ国にできてしまうのか。
この中で、福田代理人は、昭和53年の余目町個室付浴場事件を例に引きました。個室付浴場(ソープランド)の開業を阻止するためになされた山形県知事による児童遊園設置許可は、行政庁の裁量の濫用となり違法、とされた事件です。判例は次のとおり。
「本来、児童遊園は、児童に健全な遊びを与えてその健康を増進し、情操をゆたかにすることを目的とする施設(児童福祉法40条)なのであるから、児童遊園設置の認可申請、同認可処分もその趣旨に沿つてなされるべきものであつて、前記のような、被告会社のトルコぶろ営業の規制を主たる動機、目的とする余目町のA児童遊園設置の認可申請を容れた本件認可処分は、行政権の濫用に相当する違法性があり、被告会社のトルコぶろ営業に対しこれを規制しうる効力を有しないといわざるをえない」
行政事件訴訟法 は、30条(裁量処分の取消し)において「行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる」と規定しています。
原告側の弁論を受け、谷口豊裁判長は、「高規格堤防特別区域には指定されるとなり、その土地の権利制限が少し生じる。大きい建物が建てられなかったり、形状の変更をしてはいけなかったり」と、権利制限に言及。「同意は要るのか要らないのか」「要らないとしたら、どのような理由で国が盛り土できるのか」につき、「一応、重要なことと思われる」とし、この点を明らかにするよう、被告に求めました。
被告代理人は「被告の意見は意味があるのか。(スーパー堤防の)施行者でないものに聞かれても・・」と逃げの姿勢を見せましたが、裁判長は「不確かでは困る。然るべき関係部署と相談の上、原告の原因にこたえるよう」指揮しました。
お伝えしていますとおり、この点を問題視していた生活者ネットの区議会質問に対して区は、「土地区画整理事業に抵触しない。問題ない」と、根拠のない言い分に終始。一方、国は、公共事業改革市民会議の公開質問に対し、「抵触しないと江戸川区から聞いている。詳細は江戸川区に聞くように」と国としての見解を避けるなど、両者とも、この難問に正面から答えることをしていません。
次回期日について、裁判長は2月20日を提示したものの、被告はこれを拒否。国と区を共同被告に、スーパー堤防差止という本丸に斬りこんだ第三次事件の第一回期日、2月25日(水)を意識してのことだと思われます。結果、この別訴の第五回期日は、2日後の2月27日(金)午前11時開廷となりました。
12月13日に行われた「篠崎地区まちづくり事業説明会」では、まさに裁判長が指摘した「同意は要るのか要らないのか」について、住民から同様の質問を受けた国土交通省関東地方整備局江戸川河川事務所・沿川整備課長は「同意は要る」と回答しています。さて、被告・江戸川区は、法廷で一体どのように述べるのか。注目です。ぜひ傍聴を。