提出されない安全分析データの不思議~江戸川区スーパー堤防差止等訴訟控訴審第2回口頭弁論④
小島延夫代理人は、控訴人が求めたスウェーデン式サウンディング試験やボーリング調査結果の提出を、被控訴人国が拒否していることについても言及されました。
第31回まちづくり懇談会配布資料によれば、国はその調査結果に基づき、液状化、すべり解析、沈下量の3点を上げ、盛り土地盤の安全性について説明しています。特に資料19ページには、追加ボーリングによる結果を解析に反映したとして、安全性を基礎づける資料としてそのデータを使用、説明しているのです。安全性の裏付けとして、住民説明の材料とした調査結果を、裁判に提出できないとはどうしたことでしょう? 不安視されるスーパー堤防の安全性を証明する確固たるデータとして、胸を張って提出して然るべきではないでしょうか。また、資料に記載されていても、ボーリングNoが判読できないようになっているのはなぜなのか。改めて、平成28年4月以降、施工区域において実施されたボーリング等の調査結果の提出が求められました。
ボーリング調査を網の目状に実施しなかった理由について、国は「本件盛り土工事前のボーリング調査の結果及び既存データを確認することにより、本件施工区域全体の地盤の状況を的確に把握することができている」としました。しかし、現実はどうでしょうか。今回の地盤強度不足は、施工区域全体の地盤の状況を的確に把握していなかったから起きたことでもあります。控訴審に臨む国と区の姿勢は、きわめて不誠実であり、説明不足は否めません。
そこで、控訴人らは、説明が尽くされるべきと、3人の専門家の証人申請をしています。本件事業決定の際、国交省関東地方整備局河川部長を務められていた泊宏さん(現・関東地方整備局長)、同江戸川河川事務所長を務められていた宮川勇二さん(現・一般財団法人日本建設情報総合センター建設情報研究所主席研究員)、そして元東京都環境科学研究所研究員・嶋津暉之さんです。
国は、国交省のお2人について「必要性を欠く」と拒絶。「同人らは直接見聞きしていないから」をその理由としました。しかし、宮川さんは本件盛り土工事の責任者であり、事前調査の実施、それを踏まえた工法の選定についての決定権者。工事実施報告を受け、当然、宅地基準についての説明も了解するなど、この間の経緯を直接見聞しています。泊さんについても、当該地でのスーパー堤防事業を利根川・江戸川河川整備計画に盛り込んだときの実務責任者。その盛り土工事は同氏がその職にあったときに基本的には終了しており、やはり、直接見聞してきています。国の判断、その理由づけは理解に苦しむものです。
小島代理人は、「お2人とも行政の責任ある立場にあった者として、また、河川行政・河川工学の専門家として、証言をすべき必要性があることは明らか」と証人採用を強く求められました。