災害に弱いまちをつくる?~切迫感のない「災害に強い首都『東京』の形成ビジョン案」

「災害に強い首都『東京』の形成に向けた連絡会議」の第4回が12月15日に開催されました。「災害に強い首都『東京』の形成ビジョン(案)」等についてとりまとめ、国土交通大臣及び都知事に説明するというもので時間は45分。ご両名の出席時間はわずか15分。会議という名のセレモニー? 「ビジョン(案)」はこちら。「概要版」はこちら

本ビジョン案は「東京」と謳ってはいるものの、水害対策においては、東京全体というよりも荒川が流れる東部地域が中心。

「ゼロメートル地帯では地震による堤防沈下・崩落等により、洪水等の発生とは無関係に、大水害が発生するおそれがあることから堤防や排水機場等の治水施設の耐震・耐水化を推進する」

「一方で治水施設の能力には限界がある」

「このため、川沿いではまちづくりと一体で、越水しても堤防が決壊せず、緊急時の避難高台にもなる高規格堤防を整備するとともに、公園等を高台にするなど様々な手法を用いて高台づくりを進める」とのこと。

そこで、高台まちづくりのモデル地区を7ヶ所設定。

板橋区、足立区、葛飾区で各1ヶ所、そして江戸川区ではなんと4ヶ所が(概要版P3参照)。前々回のHPで、各区の意見書についてのデータ分析をお伝えしましたが、それに比例した結果になっているということでしょうか。

江戸川区の4ヶ所とは、・新小岩駅にほど近い中川左岸(荒川並行区間)・新庁舎建設予定の船堀地区・JR小岩駅周辺・篠崎地区周辺。小岩駅周辺以外の3地区で高規格堤防事業が見込まれており、篠崎ではすでに進行中。

今回、急浮上した船堀地区で想定される荒川左岸には大規模なUR団地をはじめ、集合住宅が建ち並んでいます。高規格堤防は住民全員を立ち退かせて住宅を壊し、更地にして盛り土をすることが必須。どのように進めるのかと聞けば、UR団地の建て替えの時期に行う、とのこと。つまり、おいそれとはできないということ。

本ビジョン案は「大規模災害の危険性、切迫性の高まり」により、対策を講じようというもの。高規格堤防は、高台まちづくりのひとつの事例として挙げられていますが、切迫した課題に対し、築堤に長期間を要する高規格堤防が採用されることは矛盾では? それでなくても土でできた本堤防は地震や豪雨に弱いことが過去の事象により露呈しています。東日本大震災での被害状況はこちら(P30~31)から。豪雨問題は、「桜を見る会」問題で安倍前首相に斬り込んだ田村智子参議院議員が、2011年の国会質問で取り上げられています。こちらから。委員たちはこうした事実をどう受け止めているのでしょうか。何より、不完全施行で終わっている高規格堤防施行地区に足を運んだことがあるのかと問いたいところです。

水害の激甚化・頻発化は、地球温暖化の影響であることは自明であり、気候変動など全く考慮されなかった時代に創設された高規格堤防が今日、また将来に向けて有効であるとの判断が今なおなされることに大いに違和感を覚えます。その前提として、進捗を阻む課題山積の事業で、できたと言っても多くが不完全断面であり、もはや安全神話と化す高規格堤防の虚像を依然振りかざしている点は、何と乱暴なことでしょうか。「一部整備であっても安全が格段に向上する」などはいかにも情緒的。「多様な効果が発揮される」とはどのような検証に基づくものなのか?(ビジョン案P10参照) 読むほどに科学・技術とは別の作用が感じられます。

国交大臣、都知事がそろって視察した小松川地区は基本断面は形成されたものの、当初、高規格堤防事業とは関係なく、都の再開発事業により住民がすっかり立ち退いたあとに盛り土した公園であり、ビジョン案の中でも課題とされる密集市街地での施行をにらんだ視察場所としては不適切と言えます。こちらをどうぞ。

「防災」「水害対策」の名のもとに高規格堤防事業が継続されることは、結果的に災害に弱い東京をつくることになるのではないでしょうか。

*中間まとめへの意見募集結果はこちら

*個別意見はこちらP37から。