実際に役に立ち、住民に負担をかけない治水対策を~江戸川区スーパー堤防裁判報告集会③
原告代表としてあいさつされた宮坂健司さんは、支援者にお礼の言葉を述べられたあと、まず北小岩1丁目東部地区の状況について説明されました。
当初、このまま住み続けたいと、事業に反対の声を上げていた人たちがたくさんいたことを地区内の地図上に表し、江戸川区による先行買収に始まり、直接施行までがなされた本地区での事業の結果、34%は売却して地区外へ転居、再建したのが45%、21%(7画地)が今も再建保留中であることが伝えられました。また、地区内には長い斜面道路が通り、通過車両が多いこと、法尻の千葉街道側には7階建ての福祉施設が建つため、その北側住宅への日照が妨げられることが予想され、換地に問題があるのでは、との見解が示されました。
区内の他地区での事業にも言及。篠崎地区では、飛び換地も含めた地盤強度や地盤改良、工法の問題について、また、新たに実施を見込む船堀地区は、国管理の荒川左岸であると同時に、都が管理する中川左岸でもあり、区が公表した断面図(P5)からは都型のスーパー堤防なのか、国の高規格堤防なのか、地域住民にとっては大問題であるにも関わらず、極めてあいまいになっている点について指摘がありました。
裁判で「土地区画整理法100条の2」を根拠に、「江戸川区の『管理』の権限により、国が高規格堤防の『工事』をすることができる」と判示された点については、この条文の見出しには「仮換地に指定されない土地の管理」と明記されているものの、自分たちの土地は仮換地指定された土地であることから、見出しが条文の本質を示す以上、見出しに沿った条文に変更する必要があるのではないか、と追究されました。
最後は治水対策について。
高規格堤防は「満杯流による超過洪水」に対して設計されていますが、満杯流とは、堤防の上をヒタヒタと水が流れ、風が吹くと少しこぼれるという状況であり、これをもって「越水に耐える唯一の堤防」「一部整備でも格段に安全性が向上する」などと言うのは大間違い、との指摘がなされました。これに対し、「アーマーレビー」といった難破堤堤防(耐越水堤防)は、既往の超過洪水に対して設計されており、こうした対策こそが重要との考えが示されました。
さらに、国交省や東京都がめざす「流域治水」は、実績洪水から命を守るという滋賀県の取り組みとは方向性が異なることへの懸念が示されました。水害ハザードマップでは「1000年に一度の降雨かつ破堤」が前提とされ、江戸川区では江戸川と荒川がいっぺんに破堤するとされていますが、このような過大な想定に基づくのではなく、現実問題として川の中でどこまで安全に水を流せるのか、河道流下方針において、その上限を明確に策定することが先決、との見解が述べられました。
宮坂さんは「素人の考えですが」と何度も前置きされましたが、10年以上、国や区への情報開示請求も重ね、一般市民の知りえない情報を得るなどして蓄積された知識、それに基づく考察は、治水の要諦を省みることのない行政を凌駕していると思わされるものでした。
一方で、当地は国府台にぶつかった水が跳ね返って破堤する(こちらから)、区費ゼロで事業ができる(こちらP11から)、などと発言していた区の元幹部を名指しし、「生涯忘れえぬお世話になった」と皮肉とユーモアをこめて述懐。会場から笑いを誘うひと幕も。
そして宮坂さんは、あいさつを次のように締めくくられました。
「実際に役に立ち、住民に負担をかけない治水対策が一刻も早く実現するように、ともに活動を続けましょう」