法的権原なきスーパー堤防工事~江戸川区スーパー堤防差止訴訟第1回口頭弁論

 25日(水)、午後4時。国を被告とし、全国で初めて「スーパー堤防事業」の差止めを求めた裁判の第1回口頭弁論が行われました。傍聴券の抽選にこそなりませんでしたが、103号大法廷はほぼ満席。原告席は原告3名と弁護士9名、被告席は総勢14名。官僚と思しき方々が後列にズラリと居並びました。 

 まず、原告の宮坂健司さんから裁判にかける思いが。「終の棲家、人と人のふれあいのあるコミュニテイが破壊された。カスリーン台風のときでさえ水害にあったことはなく、事業仕分けでは無駄な事業と判定された。この地につくることは二重の意味で間違っている。国はすでに決まった事業のように説明し、この事業のために出ていかなければならなかった。しかし、別件の訴訟(一体的になされる土地区画整理事業計画取消訴訟)では、『スーパー堤防事業は関係ない』と主張した。住民をこんなに愚弄した話はない。肉体的にも精神的にも憔悴しきっている。行政の横暴を野放しにしてはならない。公正・適切な司法の判断を」 

 次に、請求の内容について、小島延夫弁護団長が弁論を。①2度の移転・長期間の仮住まいによる被害②盛り土による被害③必要性のない不合理な事業④事業の違法性⑤原告らの人格権・所有権に基き差止が認められるべき との点につき、詳細に語られました。 

 特に、白熱したのは④について。

「土地区画整理事業によって江戸川区が行った強制立ち退き、その上での更地状態を利用して、国が原告らの承諾を得ることなく、盛り土工事を実施する法的権限は何ら存在しない。土地区画整理法80条は、仮換地指定のあと、その宅地の所有者の同意を得ることなく、事業を実施できるのは『施行者又はその命じた者若しくは委任した者』としている。仮換地指定のあとにできるのは、『施行者又はその命じた者若しくは委任した者による土地区画整理事業の工事』である。しかし行われているのは国の高規格堤防事業である。国と区の基本協定書を見ても、区が国に盛り土工事を命じたり委任してはいない。よって、国は、原告らの承諾を得ずに盛り土工事を実施する権限を何ら有していない。スーパー堤防事業は、同意を前提にしてのみ可能であり、現状は所有権の侵害である。違法な動機・目的のための事業実施については区も責任を免れない」 

 訴状に対する答弁書でも、国は法的根拠を示さず「争う」としたのみです。法に基き執行する行政にとって「〇〇法〇〇条に基づき~」と回答するのは最も得意とするところでしょう。事業の必要性や被害について釈明するよりもずっと簡単なハズ。それが、答弁書には1文字たりとも書かれていません。 

 たたみかけたのは福田健治弁護士。「国は権原もないまま、すでに盛り土工事に着工している。直ちに回答を」 

国「追って書面で回答する」 

「訴状を提出してから3ヶ月。着工してから2ヶ月になる。なぜ今回答できないのか?」 

国は同じ答えの繰り返し。 

 「その書面はいつ提出されるのか?」 

 「年度を挟むので、5月1日」 

 「私人の所有地上で権限なく工事をしている。工事は進めながら、5月1日か?」 

 「組織として対応しているので、書面提出には時間が要る」 

大江京子弁護士からも「では、工事についても関係部署と対応してはいかがか?」 

など、さらに応酬があり、裁判長からは「差止めがどうか、代理人同士でやっていただくとは思っていない」との指揮が。国への助け舟? 

 倉地真寿美裁判長はじめ、裁判官は3人とも女性。彼らは男女を問わず、国の立場をよ~く理解されているよう。 

 第2回期日は5月20日(水)午前11時30分開廷。年間2000件の裁判が行われる東京地方裁判所で、大法廷が使われるのは重大事件。裁判所は当初、大法廷の使用を渋っていましたが、埋め尽くされた傍聴席を目の当たりにし、次回についてはすんなり大法廷が確保されました。