急がれるべき荒川の堤防強化

 報道キャスター・長野智子さんが昨年末に書かれた「東京に迫る”荒川決壊”の危機 1400万人に影響も」。鬼怒川決壊を受けた取材により、最も危険をはらんでいるのが荒川であると警鐘を鳴らされました。(『 』内抜粋)  

 『内閣府による荒川決壊の想定雨量は72時間で550ミリ。鬼怒川が決壊した東日本豪雨災害では72時間で610ミリの雨が降っているのだから、いつ起きてもおかしくない雨量だ。

  荒川の両岸20キロ以上にわたって堤防が低いなど、水を流す能力が不足しているところがある。荒川の堤防が決壊したときに想定される死者数は3500人。心配になったのは、周辺住民の避難をどうするのかという点。とにかく早い段階で警報を発令し、それを周知させたうえで、住民が決壊までに安全な場所に避難できるかが死活問題となる。

 荒川が決壊した場合、その濁流は10キロほど離れた東京・大手町にも押し寄せるという。内閣府の試算では、地下鉄で最大17路線、97駅に浸水域は拡大し、決壊地点から20キロ離れた目黒まで達する。その影響はのべ1400万人に及ぶ可能性がある。 その対策が自治体任せでは限界がある。被害を最小限のものとするためにも、国をあげての対応が急務であると感じた。』

 荒川で堤防の計画断面が不足している区間は180.7km中76.5km。1 年間に水準を超える事象が発生する年超過確率も、利根川水系の1/70~1/80に対し、1/30 から1/40 にとどまり、現在の治水施設の整備状況は十分ではありません。では、その対策は現在どうなっている?

  国交省が、現在策定中の「荒川水系河川整備計画」で用意しているのは、下流の両岸において、計6.2kmの「高潮対策」以外に、延べ52kmの「スーパー堤防」を整備することしかありません(P44参照)。

 堤防上面からまち側に200~300mもの幅を要する本事業。すでに市街化された計画用地に暮らす住民に、自宅を壊し、何年もの立ち退きを強いることがいかに困難かは推して知るべし。平井地区での大型マンション建設がそうであったように、計画用地での開発事業を早く進めたい大手不動産会社がNOと言えば、そこはつながらないまま。移転補償費も含め、莫大な費用を要しながら、完成は何年後か読めず、放置箇所もある。

 荒ぶる川・荒川の都内沿川の人口密度は14100人/㎢と一級河川全国一。ひとたび堤防が決壊すれば、甚大な被害を招くことが想定されながら、下流部の堤防強化について、実現の見通しが立たないスーパー堤防整備に固執することは、「いつ、どんな規模で起きるかわからない洪水に対し、人の命を守る」という治水の目的を果たせないことになります。「人命と資産が集中する首都圏・大阪圏を大洪水から守る」ために5つの一級河川のみで制度化されたスーパー堤防事業。30年が経ち、現実は、その治水の目的に合致しない事業となっているのでは?

 被害が起きるたびに聞かれるのは「想定外」「整備途上」「予算不足」。

 国土管理上、最重要の河川でありながら、整備が立ち遅れている荒川では、まずは脆弱な箇所を優先に、通常堤防における効果的な強化策を講じるべきです。

 なお、江戸川区をはじめとする低地帯の東部5区や大田区・荒川区は、大規模水害時に、区の地域防災計画で指定する避難場所等に区民が避難する時間的余裕がない場合、東京都住宅供給公社住宅の共用部分を区民の緊急避難先として使用する覚書を同公社と交わしています。水があふれる河川に接するスーパー堤防を避難場所とするより、ずっと現実的な対策です。