TOKYO強靭化・川沿いの高台避難は市民を救えるか~「嶋津暉之さんの最後の解説」に学べ
「激甚化・頻発化する風水害への対策も喫緊の課題であります。浸水被害の低減に大きな効果が期待できる調節池の整備や地下河川の事業化に向けた取組を着実に進めます。避難先となる高台が不足する荒川、江戸川、多摩川の流域では、高規格堤防をまちづくりと一体的に都市計画決定して整備を進める新たな手法を導入し、高台まちづくりを着実に推進します。」
これは、2024年第一回都議会定例会で小池都知事が述べた所信表明の一部です。
東京都が実施する「スーパー堤防」は長年、都が管理する隅田川、中川、綾瀬川、旧江戸川、新中川での「都型スーパー堤防」でした。「スーパー堤防」というネーミングを最初に用いたのも実は国より東京都が先で1985(昭和60)年のこと。2年後事業化された国の「スーパー堤防(高規格堤防)」と差別化するためか、「都型スーパー堤防」と言われてきました。もちろん事業の中身は国のように「住民に家屋を取り壊させ、一斉にどかせて盛り土をしてからまちをつくりなおす」という人権無視の強権的な手法ではありません。堤防強化の基本に忠実に、かつ親水性を高める治水事業として継続されてきています。
それがなぜ、このような所信表明になったのでしょうか。
国と都は連絡会議を持ち、2020年「災害に強い首都『東京』形成ビジョン」を策定。翌21年には「高台まちづくり推進方策検討ワーキンググループ」を立ち上げ、関東大震災から100年となった昨年、「100年先も安心を目指して~TOKYO強靭化」を打ち出しました。公園や緑地整備と併せ、緊急避難先となる高台を確保することとし、高台不足箇所等での高規格堤防整備を推進する、としています。都内モデル地区7つのうち、4地区を江戸川区が占めることはすでにお伝えしているとおりです。今回、都知事が取り上げた内容は、事業中の篠崎地区のことでしょう。推進方策の検討内容として、高規格堤防の都市計画決定、直接移転のしくみ、種地確保の支援、まち側の財政負担軽減等が挙げられています(P6)。
しかし、事業開始から37年。遅々として進まない本事業は、盛土工事が始まる篠崎地区においてなお「住民合意」という、推進するための基本さえクリアされないままです。施工に長い年月を要す本事業は「喫緊の課題」への対策となりえるのか。川沿いの高台は避難場所として有効なのか。その必要性について「逃げ遅れた場合の緊急避難場所」とも喧伝されますが、川に向かって逃げろ、という避難誘導は、3.11の避難の教訓とは真逆では? 発災時の安全確保という市民生活にきわめて重要なことがらを、かんじんの市民をテーブルにつかせることなく、行政の担当者で進めてしまっていいのでしょうか。本事業継続・推進に躍起になる行政は、基本的な問題点には目を向けることはないようです。そもそも都知事は、高規格堤防の致命的な欠陥をどこまでご存じなのでしょうか。
ダムやスーパー堤防問題など、全国の水問題に取り組まれた水問題研究家で市民活動家の嶋津暉之さんの論考が「嶋津暉之さんの最後の解説」として、「八ッ場あしたの会」のHPに改めて掲載されています。嶋津さんの遺言とも言える「スーパー堤防事業の虚構」をぜひお読みください。元東京都環境科学研究所研究員でもあった嶋津さんの明快な解説が東京都知事のお目にもとまりますよう。
■「江戸川区スーパー堤防裁判報告集会」でのご講演はこちらからどうぞ。
■「江戸川区スーパー堤防差止訴訟」での証人尋問はこちらからどうぞ。