スーパー堤防は法治国家をも壊す~江戸川区スーパー堤防差止訴訟第3回口頭弁論

   これまでの裁判で倉地真寿美裁判長は「国がスーパー堤防として行う盛り土と、区が土地区画整理事業の中で行う盛り土について、形状などに何か違いはあるのか?」と問うています。「形状などに違いがないなら、スーパー堤防によって住民が被害を被るわけではない」との結論を導き出そうとしていることが窺えます。

   7日に行われた第3回口頭弁論の冒頭、原告団の小島延夫弁護団長は、改めてスーパー堤防事業が住民にもたらす被害について、2名の住民の例を引き、具体的に解き明かしました。 

 「非自発的に立ち退いたことで、頭痛・憂うつ・突然地響きに見舞われる錯覚・脱毛・体の斑点・愛猫のショック死・リフォームしたばかりの自宅の解体など、極めて深刻な心身や環境の異常が現れ、通常の生活ができない状況に陥るなどは、単に区画整理事業ではなく、一斉移転を要するスーパー堤防事業によるからこそ起きている事態である 」

 そして、盛り土が江戸川区の区画整理事業ではなく、国のスーパー堤防事業によってもたらされている理由として、①当地では、まずスーパー堤防が先にあり、その実行の手段として区画整理事業が持ち上がっている②盛り土はスーパー堤防抜きに実施し得ず、国は、裁判の証拠書類や区との協定書の中で、盛り土がスーパー堤防を整備する上で発生するものと認めている③区画整理事業の中で盛り土するとしていた区は、盛り土の設計や材料、工法について何ら検討していない、などが挙げられました。 

 どれについても、ひとつひとつ、これまでの準備書面や証拠書類、議会答弁、協定書など、被告が作成・陳述した内容から根拠をつまびらかにしつつ、理路整然と弁論がなされました。よって、「住民の苦しみはスーパー堤防によって生み出されたもの」であり、さらにこのようなことが「権利者の同意がなくできるのか」という最大の争点へと展開しました。 

 その争点、「同意もないまま、なぜ国がスーパー堤防事業を行っているのか。それは何の権原に基づくのか」については、福田健治弁護士が弁論。国が主張していた、あるいは現在主張している法律の条文について、その誤りを明快に指摘しました。 

■土地区画整理事業80条 ・・・ 施行者(江戸川区)又は、施行者が委託したものが区画整理事業の「工事」を行うことができることを規定しており、国は、区画整理の施行者ではなく、区から区画整理を委託されてもいない。

■土地区画整理事業100条の2 ・・・区画整理事業の施行者(江戸川区)は、仮換地指定のあと、その土地を「管理」すると規定している。「管理」とは、たとえば人の出入りを禁止するための柵を設けるなど、土地そのものの変更をしない範囲を言う。スーパー堤防という、大規模に形質を変更する「工事」は「管理」ではない。 

 当初、被告は80条を主張。それが誤りと指摘されるや、苦し紛れに100条の2を持ち出したわけですが、「管理」権原を定めた100条の2をもって「工事」の根拠とするならば、昭和34年、わざわざ盛り込んだ「工事」を定めた80条を死文化させるものであり、到底認められず、被告の主張は明らかに合理性を欠く、との指摘がなされました。 権利を制約するためには法の根拠が必要。それがあってこその法治国家です。一時は根拠としていた「河川法」についても、小島弁護団長の指摘により撤回しています。こちらから。

 さらに、西島和弁護士からは、この裁判で、国がスーパー堤防事業の費用便益を1.4倍としていることについての反論が再度なされました。そもそも河川整備計画に基づく費用便益とは異なっていることから、この日の法廷で、その根拠を明らかにすることになっていたのですが、被告はすっかり失念していたようで、また次回、ということになりました。西島弁護士は、治水マニュアルに従えば、計画に合わせるのが妥当であり、そうなれば1.4倍ではなく、1を下回る、と主張しています。 

 裁判長は、「(国だけでなく)区の主張も伺いたい」としましたが、被告に対し、「お答えできるということであればお願いする」とも。国と区は、お答えできなくてもいい? この裁判からは、司法と行政が、ことの重要性に真摯に向き合おうとしない 姿勢がやたら目立ちます。ひとことで言えば、軽い。

 この日も法廷を埋め尽くす傍聴者が詰めかけ、次回も大法廷となりました。第4回は、11月4日(水)午前10時開廷 103号法廷。 どうぞ傍聴にお出かけください。