「30倍」と「なだらか」はどこへ?~重要な要素欠くスーパー堤防

スーパー堤防は、まち側に「堤防高さの30倍」の幅をもたせ、「なだらかに盛り土する」のが基本です。国交省作成の堤防図からも、まち側の法尻は、なだらかに地先の土地にすり付けられる構造であることがわかります。

江戸川区は、荒川沿いの平井と小松川、江戸川沿いの北小岩に、国との共同によりスーパー堤防をつくってきましたが、いずれも「堤防高の30倍の幅」で「なだらかに盛り土」するという基本形が保たれていません。

前代未聞の地耐力不足が発覚した北小岩一丁目の堤防高は7.7m。ならば、7.7×30=231m ですが、実際は160m。それでも区は、19年度予算特別委員会にて「30倍を確保している」と強弁。説明では「まち側の法尻(端)が2.7mの高さであるため、7.7-2.7=5 よって5×30=150mのところ、160mあるのだからいい」と不適切な計算法を持ち出す始末。基準は堤防高のはずでありながら、法尻を基準に逆算とは。まち側には当地の先に千葉街道があるため、盛り土をそこで止めるしかなかったのでは? 平井のスーパー堤防が、建て替え時期でないという国家公務員住宅に阻まれ、30倍の確保ができなかったことと同じでは?

さて、東京都市街地再開発地域である小松川に、平井からこの春移転する区立小松川第二中学校は、スーパー堤防上に建つ東京で唯一の学校。事前に念入りに地盤改良工事をした点は北小岩と異なりますが、こちらもまた30倍の幅は確保できていません(国交省関東地方整備局による再評価資料P12参照)。地先には、隣地マンションの駐車場の出入り口にもなっている生活道路があり、これをふさいで土を盛ることができなかったためでしょう。坂道のため、もっとも低いところは6mもの擁壁が。

中央の道路の手前で盛り土が終結し、5~6mの擁壁が。盛り土に傾斜はなく、水平。単なる校舎の土台?

つまり、区内のスーパー堤防は、どれも不完全なスーパー堤防。

事業見直しにより、6河川の総延長872kmから、5河川120kmへと大幅に縮小された対象は下流域。そこは大都市の住宅密集地。住民の立ち退きが前提となったり、壊すことのできない都市施設や歴史的建造物が存在していたり、今後も「30倍」でも「なだらか」でもない不完全な堤防となることは想像に難くありません。

区も国も「基本形が確保できなくても安全性が高まる」などと言いますが、スーパー堤防事業が安全であるための基本の定義をそっちのけにした、まことにおかしな話。「なだらか」な「30倍」の幅が確保できなくても安全が増すなら、「なだらか」で「30倍」の幅を確保しようとするスーパー堤防事業は意味のないものになりますね。

左奥が校舎、右側が荒川。その間をボックスカルバートで道路が通るため、スーパー堤防の起点は盛り土されず空洞。