今問われる「高規格堤防の現状と課題」~国会図書館調査論文より②

「高規格堤防整備の現状と課題」では、「浸水の可能性」について、「高規格堤防上に居住すれば、自宅が浸水する心配がないことが大きな利点と考える人が多い」としつつ、次のように指摘しています。(P33)

国交省のハザードマップによると、都内の「高規格堤防」整備対象区間の大半では、「想定最大規模で3m~5mの浸水が想定されている」。スーパー堤防は1/30の勾配であることから、「法尻まで水平距離で川寄り60m程度までの場所は、盛土は2m程度以下になるため、想定最大規模の浸水が発生した場合には浸水することになる。

これを踏まえ、「避難用の高台の整備」(P34)については、

・事業仕分けでの「廃止」を受けた平成23年の「高規格堤防の見直しに関する検討会」では、「人命第一の高台整備」の必要性がとりまとめられたが、上記の通り「浸水の可能性のある場所は避難用の高台とはならないと考えられる。」

さらに、完成形が極めて少ない本事業の「完成していない堤防の裾野の部分」について次のような指摘を。

・擁壁対応となっている未整備部分は「安定性を十分発揮するためには追加の整備を行う必要がある」としながらも、「整備後も浸水する箇所であり、新たな避難用の高台を創出することにはならず、この点では整備目的に合致しないことになると考えられる。」

・したがって、裾野部分は「整備を実施する側、整備を受ける側の住民双方で、整備へのインセンティブを十分高めることが難しいと思われる。」

論文では、平成27年の社会資本整備審議会答申「大規模氾濫に対する減災のための治水対策のあり方について」で、「施設で防ぎきれない洪水は必ず発生することを前提として考える必要がある」とされ、平成30年には「堤防決壊に至る時間を引き延ばす堤防」が要望されたことも明記されています。

これに則れば、予想を上回る大規模災害が多発する今日、長期間を要し、完成時期も示されない「高規格堤防」ではなく、速やかに整備できる洪水対策が求められるはずで、その代表格であるアーマーレビーについても記載されています(P35)。

そして、読後、ちょっと残念に思ったことが。

本事業について、直近の大きな課題のひとつに「盛り土そのものの危険性」があります。国会でも取り上げられ、「スーパー堤防差止等訴訟控訴審」では「地盤強度不足」が大きな争点となった、本事業に関わる基礎的な大問題。本論文がここに言及していないのはなぜなのか。東日本大震災でも利根川下流のスーパー堤防は2ヶ所で盛り土被害(P30・31)を受けました。本文では「東日本大震災における被害と対応が(上記見直し検討会の)議事になる」とさらりと触れているのみです(P27 )。また、引用されている住民アンケートが2006年時のもので、聞きとり方は「盛り土上に居住する場合の満足度」というもの。つまり、まだそうなっていない段階での回答であり、今、まさにこの事業の影響を受けている人たちへの聞き取りが必要ではなかったかとも考えます。江戸川区が事業実施後、2018年に実施したアンケート結果はこちら

本論文は中立性が重要な要素だそうなので、「30年以上経ってもまだこれだけの課題が山積していて、総延長119kmに対して完成したのは3.4km、2.8%なんだからもうやめるべき」とは書けないのでしょうが、「おわりに」は次のように結ばれています。

「整備に必要となる時間も考慮に入れるなどして、超過洪水への安全性を向上できる堤防の規格や構造等について更なる研究及び検討がなされることが望まれる。」